欧米にも負けないスピード感で地域単位のデジタルヘルスに取り組んでいるオーストラリア。同国で最大規模となるニューサウスウェールズ(NSW)州における、医療技術(MedTech)産業の振興と地域創生の取り組みを見てみよう。
本連載第31回、第34回で、オーストラリアのデジタルヘルス事例を取り上げたが、技術導入のスピードで欧米に負けない取り組みが地域単位で進んでいる。
本連載第39回で「Apple Watch Series 4」の心電図(ECG)アプリケーションを取り上げた。ちょうど新製品が発表された2018年9月、米国スタンフォード大学などの研究チームが、Apple Watchの光電脈波法(PPC:Photoplethysmography)を利用した臨床研究「Apple Heart Study」の研究成果を報告している(関連情報)。
実は同じタイミングで、オーストラリア・ビクトリア州のモナッシュ大学の研究チームが、FitBitおよびApple WatchのECG継続モニタリング機能を利用した不整脈評価に関する臨床試験の成果を報告していた(関連情報)。この臨床試験は、「Apple Heart Study」の開始よりも早い2016年10月4日、オーストラリア・ニュージーランド臨床試験登録(ANZCTR)に登録されている(関連情報)。
本連載第36回で取り上げた糖尿病領域のリアルワールドエビデンス研究「CVD-REAL 2」においても、国際共同臨床試験の対象国/地域にオーストラリアが組み込まれている(関連情報)。
オーストラリア連邦政府や各州/地域政府は、積極的なライフサイエンス産業振興策の一環として、CRO(受託臨床試験機関)やCRC(臨床試験コーディネーター)の育成など、国際臨床試験受け入れ体制の整備を進めてきた。その結果、オーストラリアは、国際共同治験・臨床試験では、アジア・太平洋地域有数の実施試験数を誇っている。
医療分野に限らずオーストラリアのイノベーションの特徴は、連邦政府が策定する包括的な戦略をベースに、シドニー、メルボルン、ブリスベーン、アデレード、パースなど、個々の地域/都市レベルで、多様な文化やリソースを生かしながら具体的な事業開発に落とし込む産官学連携クラスタのエコシステムが出来上がっている点だ。今回は、オーストラリア最大の都市シドニーを有するニューサウスウェールズ(NSW)州の取り組み事例を紹介する。
ニューサウスウェールズ州政府は、2016年11月30日、連邦政府の「全国イノベーション・科学アジェンダ」(関連情報)に呼応して、「Bringing Big Ideas to Life」と題するイノベーション戦略を発表した(関連情報)。この戦略は、以下に示す通り、4つの活動領域について具体的なイニシアチブを設定している。
NSW州には、シドニー大学、シドニー工科大学、西シドニー大学、ニューサウスウェールズ大学、マッコーリー大学など、世界的に評価の高い教育・研究機関が集中しており、国内のみならずさまざまな国と地域から留学生、研究者を引き付けている。その上で、デジタル世代のイノベーションをけん引するSTEM人材の継続的な育成/供給を地域共通の柱と位置付けて、起業家支援施策を展開している点が注目される。
そして、この横断的なイノベーション戦略をベースに、個々の産業領域レベル(先進製造、先進技術、農業/食品、アート/文化/クリエイティブ、サイバーセキュリティ、防衛、教育、金融/専門サービス、インフラストラクチャ/建設、医療技術、鉱業/資源、再生可能エネルギー/サステナビリティ、ツーリズム)の投資促進戦略が策定されている。
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