産業技術総合研究所が、光応答性ポリマーとレーザーを活用し、培養細胞を高速に自動処理する技術を開発した。ディープラーニング(深層学習)に基づき、細胞の判別・純化、細胞単層の切断・均一細分化などを高速処理する。
産業技術総合研究所(産総研)は2018年12月7日、光応答性ポリマーとレーザーを活用し、培養細胞を高速に自動処理する技術を開発したと発表した。ディープラーニング(深層学習)に基づき、細胞の判別・純化、細胞単層の切断・均一細分化などを高速処理する。産総研創薬基盤研究部門 研究グループ長の金森敏幸氏らが、理化学研究所、片岡製作所、名城大学と共同で開発した。
産総研と片岡製作所では、2014年より共同研究に取り組み、光応答性ポリマーを用いて培養細胞を高速レーザー処理する要素技術を確立している。今回の研究では、この技術をベースに、ヒトiPS細胞の継代培養に必要となる基本操作を自動化する技術を開発した。
具体的には、培養液や細胞を直接加熱しない可視光レーザーを高速かつ精密に走査させ、培養ディッシュ全域の顕微鏡観察像を高速に取得する装置を開発。培養基材の表面には、光応答性ポリマーの薄層を導入した。
この装置では、レーザーの照射エネルギーを光応答性ポリマー層だけで効率よく熱に変換できる。これにより、直上にある標的細胞への作用を最大化する他、周辺の細胞を含む培養系全体への影響を最小限に抑えられ、処理速度と精度が向上した。
ヒトiPS細胞の継代培養では、突発的に生じた分化細胞を手作業で除去している。今回、研究グループでは、ディープラーニングを応用し、培養ディッシュ全域の顕微鏡観察像から未分化iPS細胞と分化細胞を判別するプログラムを開発。未分化のヒトiPS細胞だけを染色した培養ディッシュの蛍光顕微鏡画像を学習し、位相差顕微鏡画像から不要な分化細胞を判別可能にした。このプログラムを使って、光応答性ポリマー層上で培養したヒトiPS細胞から分化細胞をレーザー照射で自動的に除去したところ、未分化細胞を97%以上まで純化できた。
さらに、ヒトiPS細胞単層をレーザーで切断し、均一なサイズの細胞集塊を作製する技術を確立した。同技術により、ヒトiPS細胞の継代培養において、大きさのバラツキを大幅に低減し、10継代にわたって未分化状態を安定に維持できた。
これらの技術により、ヒトiPS細胞の継代培養における不要細胞の判別除去や細胞単層の細分化処理の高速自動化が可能になった。なお、2018年度内には、自動細胞プロセシング装置として、片岡製作所から製品化する予定だ。
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