情報通信研究機構と大阪大学は、ヒトの立体視力の個人差に対応した神経線維束を明らかにした。今後、弱視など立体視と関わる視覚障がいの解明や、個人差を考慮した映像提示技術の開発などにつながるとしている。
情報通信研究機構(NICT)と大阪大学は2018年11月19日、ヒトの立体視力の個人差に対応した神経線維束を明らかにしたと発表した。NICT脳情報通信融合研究センター 主任研究員 天野薫氏らと大阪大学の研究グループが共同で行った。
ヒトの立体視は、両眼が受け取る視覚情報の違いを手掛かりとして、視覚情報が脳で処理されることで成り立っている。しかし、ヒトの立体視力には大きな個人差がある。これまで脳を傷つけることなく定量的に調べる方法が限られていたため、立体視力の個人差の原因は明らかになっていなかった。
研究グループは、脳の離れた場所同士を結ぶ線維束に着目。最新のMRI計測を用いて、視覚処理に関わる脳の場所同士を結ぶ線維束の構造の違いが、立体視力の個人差と関係するのではないかという仮説を検証した。まず、拡散強調MRIという手法で得られたMRI画像を分析し、視覚処理に関わる線維束の位置を求めた。次に、定量的MRIという手法で、線維束の神経組織密度を計測した。
さらに、MRI実験に参加した実験参加者の立体視力を心理実験で調べた。実験では、両眼の像の違いが検出できれば、図形の中心部分が周辺より手前あるいは奥に見える図形を示した。実験参加者は、図形の中心部分が手前もしくは奥に見えたかを回答する。この実験に基づき、両眼の像の違いがどのくらい大きければ検出できるのかを各実験参加者について調べ、立体視力を求めた。
この立体視力の個人差と線維束の神経組織密度の関係を検証したところ、立体視力成績と右半球(大脳右側)のVertical Occipital Fasciculus(VOF)と呼ばれる線維束との間に関係性が見られることが分かった。立体視力の高い参加者は、低い参加者と比べて、右半球VOFの神経組織密度が高かった。さらに、fMRI実験によって、VOFが大脳皮質上の奥行情報に反応する領域をつないでいることが示された。また、VOFは、両眼の情報統合を必要としないコントラストの低い画像を区別する課題の成績とは関係しないことも確認した。
この研究は、ヒトの立体視力の個人差を説明する神経基盤を解明したものとなる。これらの結果は、VOFを介した視覚野の領域同士の連絡の仕方の違いによって、ヒトの立体視力の違いが見られる可能性を示唆する。
今後、VOFと立体視力の関わりをさらに詳しく調べることで、弱視など立体視と関わる視覚障がいの解明や、立体視力の個人差を考慮した映像提示技術の開発などにつながるとしている。
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