九州大学は、涙の中に含まれるコレステロール硫酸という脂質が、免疫細胞の動きに重要な「DOCK2」というタンパク質の機能を阻害し、眼を炎症細胞の浸潤から守る働きをしていることを発見した。
九州大学は2018年8月1日、涙の中に含まれるコレステロール硫酸(Cholesterol sulfate:CS)という脂質が、免疫細胞の動きに重要なタンパク質「DOCK2」の機能を阻害し、眼を炎症細胞の浸潤から守る働きをしていることを発見したと発表した。同大学生体防御医学研究所 主幹教授の福井宣規氏らと、慶應義塾大学との共同研究による成果だ。
生体には、免疫監視機構が発動しにくい組織や空間(免疫特権部位)がある。眼もその1つで、幾つかのタンパク質が免疫回避に働くことが知られている。同研究グループは2001年、DOCK2という分子が免疫細胞の動きに必須の働きをしていることを発見した。DOCK2は、DHR-2という領域を介してRacという分子を活性化させることで、細胞運動を引き起こす。
今回、DOCK2の機能を阻害する物質の探索を進める中で、CSがDOCK2の働きを強力に抑制し、免疫細胞の動きを止めることを発見。CSは特異的にDOCK2のDHR-2領域に結合し、DOCK2によるRac活性化を強く阻害していた。
そのため、CCL21やfMLPなどの走化因子に対する免疫細胞の遊走を調べたところ、CSが存在する場合、CCL21によるT細胞の遊走が障害され、DOCK2遺伝子を欠損したT細胞の遊走と同レベルにまで低下した。fMLPによる好中球の遊走もCSによって障害されるが、CSをfMLPと同じ場所に添加すると、好中球はfMLPに向かって動くが、一定距離以上は近寄れないことが分かった。つまり、CSがDOCK2の機能を阻害し、免疫細胞の運動をブロックすることが明らかになった。
次に、マウスを用いた解析では、コレステロールからCSを産生するのに重要なタンパク質「Sult2B1b」が皮膚や小腸以外にもハーダー腺で大量に産生されており、涙の中にもCSが多量に含まれていた。一方、CSを産生できないSult2B1b欠損マウスでは、紫外線照射や抗原投与によって免疫細胞の浸潤を伴う眼の炎症が悪化した。この炎症は、CSを点眼すると野生型マウスと同レベルまで抑制できた。
これらの成果から、CSがDOCK2の機能を阻害し、免疫細胞の浸潤をブロックすることによって、眼の免疫特権環境の形成に関わってことが明らかになった。今後、免疫特権環境の理解と応用につながることが期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.