中小企業の現状を示す「2018年版中小企業白書」が公開された。本連載では「中小製造業の生産性革命は、深刻化する人手不足の突破口になり得るか」をテーマとし、中小製造業の労働生産性向上に向けた取り組みを3回に分けて紹介する。第2回ではITによる労働生産性向上策を取り上げたが、第3回ではそれ以外のさまざまな取り組みについて紹介する。
経済産業省 中小企業庁は2018年4月に「2018年版中小企業白書(以下、中小企業白書2018)」を公表した。本稿では「中小製造業の生産性革命は、深刻化する人手不足の突破口になり得るか」をテーマとし、中小企業白書2018をもとに中小製造業が労働生産性の向上に向けて取り組んでいる施策とその効果などを3回に分けて考察する。
本連載の第1回「中小製造業における業務プロセス改善の効果と成功のカギ」では、労働人材不足に対して中小企業が「従業員の多能工化と兼任化」「業務プロセスの改善や工夫」「IT導入、設備投資による省力化」「労働人材が担っていた業務のアウトソーシング」といった生産性革命に取り組んでいることを明らかにするとともに、中小製造業の業務プロセス改善と成功のために必要な環境などについて紹介した。第2回の「中小製造業のIT導入による労働生産性向上と見えてきた課題」では、第1回で示した取り組みの中から、中小製造業における生産性革命の大きな柱ともいえるIT利活用の現状と課題について紹介した。
そして、最終回となる今回は、中小製造業が行っているその他の施策として「従業員の多能工化と兼任化」「設備投資による省力化」「業務のアウトソーシング」について掘り下げたい。
従業員の多能工化と兼任化に対する取り組みは、採用難や資金難などにより従業員数を増やすことが難しい中小製造業にとって、人手不足への有効な対策となる。ここでは、中小製造業における従業員の多能工化と兼任化に向けた取り組みの実態を把握し、その効果や課題などについて明らかにする。
中小企業における従業員の多能工化と兼任化の取り組み状況をみると、回答者の73.3%が多能工化と兼任化に取り組んでおり、全体の28.5%が3年前に比べて多能工化と兼任化を積極化していることが分かる(図1)。
この取り組み状況について業種別に見ると、製造業が従業員の多能工化と兼任化に積極的に取り組んでいると回答していることが分かる(図2)。本稿の第1回で示したような、人手不足感が強い建設業、サービス業においても取り組みが進んではいるが、製造業ほど積極的ではないため、多能工化と兼任化に取り組む一層の余地があると考えられる。
また、従業員の多能工化と兼任化を進めるに当たり、具体的にどういう取り組みを行ったのかを見てみると「業務マニュアルの作成と整備」「従業員のスキルの見える化」の回答割合が特に高くなっている(図3)。
なお、多能工化と兼任化に「取り組んでおり、3年前に比べて積極化している」企業においては「取り組んでいるが、3年前に比べて積極化はしていない」企業に比べて、いずれの取り組み項目においても実施割合が高くなっていることが分かる。多能工化と兼任化を進めるに当たって、「業務マニュアルの作成と整備」や「従業員のスキルの見える化」など、業務見直しに関する取り組みを包括的に行っているという状況が見える。
図4は、多能工化と兼任化に取り組んだことによって感じている効果を、社内における業務見直しの実施有無別に確認したものである。これを見ると、業務見直しを実施した企業において、多能工化と兼任化による各効果を感じている企業の割合が高くなっている。一方で業務見直し未実施企業においては「特に効果を感じていない」と回答した企業の割合が高くなっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.