中小製造業の労働生産性向上の現在地、多能工化や設備投資は何をもたらしたか:2018年版中小企業白書を読み解く(3)(6/6 ページ)
アウトソーシングの活用状況別に、3年前と比べた労働生産性の変化を確認すると、アウトソーシングに「取り組んでおり、3年前に比べて積極化している」企業において、労働生産性が向上したと感じている企業の割合が最も高くなっていることが分かる(図19)。
図19:アウトソーシングの取り組み状況別に見た、3年前と比べた労働生産性(クリックで拡大)出典:中小企業白書2018
アウトソーシング活用に関連する今後の方針について人手不足感の程度別にみると、人手不足感が強い企業ほど、アウトソーシングの活用を積極化する企業の割合が高くなっていることが見て取れる(図20)。人手不足の状況に対応するための手法として、外部リソース活用の積極化が検討されているものと推察される。
図20:人手不足感別に見た、今後のアウトソーシング活用方針(クリックで拡大)出典:中小企業白書2018(クリックで拡大)出典:中小企業白書2018
これまで3回にわたり、中小製造業が労働生産性の向上に向けて取り組んでいる施策とその効果を考察してきた。「生産性革命」という視点から「従業員の多能工化と兼任化」「業務プロセスの改善や工夫」「IT導入、設備投資による省力化」「労働人材が担っていた業務のアウトソーシング」という4つの施策を取り上げたが、どの取り組みについても、実施した企業は未実施の企業と比べて労働生産性が向上したことが分かった。
さらに、これらの取り組みに共通して「業務マニュアルの作成と整備」や「従業員のスキルの見える化」など、業務見直しに関する取り組みを行うことが有効だということも明らかになった。それぞれの企業が置かれている状況や取りうる手段は違えども、業務プロセスの見直しが土台にあってこそ、生産性革命に成功の道が開けるといえるだろう。
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長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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