高い技術力を武器に世界市場をけん引してきた日本の製造業。しかし、周囲を取り巻く環境は目まぐるしく変化し、置かれている状況は決して楽観視できるものではない。日本のモノづくりの現状を示す「ものづくり白書」では、日本の製造業独自の強みを示すとともに、固有の弱みがあることを明らかにしている。日本の製造業の持つ、強みと弱みとは何だろうか。
日本政府は2017年6月に「平成28年度 ものづくり基盤技術の振興施策」(以下、2017年版ものづくり白書)を公開した。「ものづくり白書」とは「ものづくり基盤技術振興基本法(平成11年法律第2号)第8条」に基づき、政府がものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策に関する報告書だ。経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成している。
経済産業省が執筆した第1部第1章では、アンケート調査に基づき、日本の製造業が直面する課題と展望を分析している。本稿では、2017年版ものづくり白書の第1部第1章「我が国ものづくり産業が直面する課題と展望」の内容を中心に、日本の製造業の現状や主要な課題、課題解決に向けた取り組みなどを2回に分けて紹介する。前編では、日本の製造業が直面する2つの主要課題について取り上げる。
日本の製造業は、海外展開を進める上で現地での生産を拡大してきた。しかし、その動きにも変化が見られる。経済産業省が2016年に行ったアンケート調査では、海外生産を行っている製造業の企業のうち、11.8%が「過去1年間で国内生産に戻した」と回答している。この数値は過去2年の調査とほぼ同じであり、国内回帰の動きが一定程度継続しているといえる。国内移転前の生産拠点は中国・香港からの割合が高くなっていた(図1)。
国内回帰が一定程度継続する背景については「為替レート」に加えて「人件費」の上昇があると分析。その他にも「品質管理上の問題」や「リードタイムの短縮」などが上位に挙がっていた(図2)。
また「国内回帰のために改善を期待する要因」という問いに対しては「工場労働者の確保」や「高度技術者・熟練技能者の確保」など人材確保に関する項目が上位を占めた(図3)。国内回帰を進めるにあたって、国内の人材不足が大きな課題としなっていることが明らかになっている。
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