中小企業の現状を示す「2018年版中小企業白書」が公開された。本連載では「中小製造業の生産性革命は、深刻化する人手不足の突破口になり得るか」をテーマとし、中小製造業の労働生産性向上に向けた取り組みを3回に分けて紹介する。第2回は中小製造業におけるIT利活用による労働生産性の向上について取り上げる。
経済産業省 中小企業庁は2018年4月に「2018年版中小企業白書(以下、中小企業白書2018)」を公表した。本稿では「中小製造業の生産性革命は、深刻化する人手不足の突破口になり得るか」をテーマとし、中小企業白書2018をもとに中小製造業が労働生産性の向上に向けて取り組んでいる施策とその効果などを3回に分けて考察する。
第1回の「中小製造業における業務プロセス改善の効果と成功のカギ」では、中小製造業の業務プロセス改善と成功のために必要な環境などについて紹介した。第2回では、深刻化する人手不足に対し、生産性改善に大きく寄与するとみられるIT利活用の現状と課題について紹介する。
中小企業におけるIT利活用の現状を見るに当たり、まず始めに代表的なITツールの利活用状況を確認したい。代表的なITツールについて「十分利活用されている」と回答した企業の比率は、一般オフィスシステムと電子メールで55%前後、経理ソフトなどで約40%、ERP(Enterprise Resource Planning)やEDI(Electronic Data Interchange)で約20%であることが分かる(図1)。この結果から、中小企業のITツール利活用はいまだ不十分であり、活用度合いを高める余地は大きいといえる。
では、ITツールの利活用状況と企業の売上高規模に相関関係はあるのだろうか。代表的なITツールについて売上高規模別に「十分利活用されている」と回答した企業の比率を見ると、どのツールも売上高規模が小さくなるほど活用割合も低下している(図2)。最も利活用が進んでいる一般オフィスシステムと電子メールであっても、売上高の最小規模企業群では4割を切る程度の利活用率しかない。このことから、ITツールの利活用状況と企業の売上高規模の間には相関関係があることが推察でき、中小企業全体でのITツール利活用水準底上げのためには、特に規模の小さな企業におけるIT利活用の促進が必要と思われる。
中小企業がIT導入を進めている業務領域について見てみると、財務・会計のIT導入比率が約75%と最も高く、他の業務領域は50%から60%に収まっている(図3)。特に財務・会計財務・会計においては「期待した効果が得られている」との回答割合も22.8%と高い。一方、顧客管理と在庫管理は、「導入したが効果が得られていない」との回答が他の3領域より高く、IT導入前の期待に見合うほどの効果を得ることが相対的に難しいことが推察される。
業種別に見ると、受発注と在庫管理は製造業と卸売業・小売業での導入比率が高く、さらに卸売業・小売業は顧客管理の比率も高い(図4)。逆に、財務・会計と人事・労務は業種間の散らばりが小さいことが分かる。
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