東京工業大学は、藻類がデンプン合成を調整する新たな仕組みとして、GLG1タンパク質のアミノ酸がリン酸化修飾を受け、リン酸化状態がデンプン合成のON/OFFを決定していることを解明した。
東京工業大学は2018年11月5日、藻類のデンプン合成をコントロールする新たな仕組みを解明したと発表した。デンプン合成開始時に機能するGLG1タンパク質のアミノ酸がリン酸化修飾を受け、リン酸化状態がデンプン合成のON/OFFを決定する。同大学科学技術創成研究院 教授の田中寛氏らの研究グループが、東北大学と共同で行った。
藻類は、油脂を蓄積するためバイオ燃料生産で注目を集めているが、デンプンも細胞内に高蓄積することが知られている。しかし、油脂に比べてデンプンを生産する仕組みはこれまで不明であり、デンプン生産性を高める機構の解明が待たれていた。
同研究グループは、藻類オイルが蓄積する条件で同様に藻類デンプンが蓄積する現象に注目し、藻類オイル合成で重要なタンパク質リン酸化酵素のTORキナーゼが、デンプン合成でも機能しているのではないかと考えた。そこで、単細胞紅藻シゾン内で、TORキナーゼのリン酸化活性を人為的に阻害したところ、細胞内でデンプン量が顕著に増加することが確認された。これにより、TORキナーゼが藻類デンプン合成でも重要な役割を担っていると言えた。
このTORキナーゼは、その活性によって標的となるタンパク質のリン酸化状態を変化させる。そこで、タンパク質のリン酸化状態を網羅的に解析した結果、デンプン合成に関わると考えられるGLG1タンパク質を発見した。さらに、TORキナーゼ経路によってリン酸化を受けるGLG1のアミノ酸を特定し、このアミノ酸のリン酸化状態によって、細胞内のデンプン量が調節されていることを明らかにした。
GLG1タンパク質とそのリン酸化を調節するTORタンパク質は、藻類に広く保存されており、今回明らかにした仕組みは藻類一般に保存されていると考えられる。GLG1とTORによる調節系は、他の藻類でもデンプン量を変える優れた標的になると考えられる。今後、デンプン合成におけるGLG1のさらなる詳細な解析を進めることで、デンプン生産能を向上させた藻類株の育種が期待されるとしている。
同研究グループは、以前、藻類デンプンから、高付加価値を持つレブリン酸メチルや乳酸メチルなどの有用化学品原料を合成する新たな化学変換プロセスを開発した。今回の成果を基に、藻類のデンプン生産量を増加できれば、環境に優しい燃料添加剤や医薬品、化粧品、プラスチックなどに用いられる可能性があるという。
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