藻類から水素を効率よく取り出す技術を開発、水素経済を実現できるかスマートグリッド

最も効率の良い植物であっても光合成では太陽光のわずか2%を利用できるにすぎない。しかし、吸収したエネルギーはほぼ100%、物質の合成に利用できる。水中で生活する藻類は素早く増殖するため、メタン、エタノールやブタノールなどの燃料を製造する「生きた機械」として有用だと考えられている。DoEによれば、米国が1年に消費する化石燃料を現在の技術で全て藻類に置き換えようとすると、10km四方の池を390個用意すればよいという。淡水である必要もない。

» 2011年06月02日 19時36分 公開
[R. Colin Johnson,EE Times]

 米エネルギ省(DoE:Department of Energy)のアルゴンヌ国立研究所(Argonne National Laboratory)は、藻類から水素燃料を生成する技術を発表した。水と太陽光に加え、金属ナノ粒子触媒を利用する。太陽エネルギーを取り込む藻類の光合成メカニズムを利用して、藻類から豊富な燃料を生成できるという。近年注目されている水素経済の原動力となる技術として期待できる。

 水素燃料の生成に関する研究は既に世界各国で進んでいるが、アルゴンヌ国立研究所の化学者であるリサ・ウーチック(Lisa Utschig)氏とデビッド・ティーデ(David Tiede)氏率いる光合成研究チームが発見した手法は、従来の手法の5倍以上も効率的に水素燃料を生成できるという(図1)。同研究チームは、Pt(白金)のナノ粒子を藻類の重要なタンパク質と結合させることで、水素燃料を生成するように変化させる仕組みを解明した。

ALT 図1 アルゴンヌ国立研究所の化学者Lisa Utschig氏 光合成タンパク質と白金ナノ粒子を結合させ、太陽光から水素燃料を生成する実験中の様子。写真右側の試験管内に水素の小気泡が見える。

 光合成では通常、高エネルギーリン酸結合を内部に持つアデノシン三リン酸(ATP)のような分子が生成される。ATPは成長や呼吸にも利用される生体に必須の分子で、必要になるまで貯蔵することができる。アルゴンヌ国立研究所の研究チームは、金属ナノ粒子触媒を利用して光合成の過程を変化させると、藻類が水素を生成して蓄えることを発見した。藻類を電気を発生させる燃料電池に使えるのではないかと考えた。

 アルゴンヌ国立研究所の光合成研究チームは、50年間にわたり光合成のリバースエンジニアリングに挑戦してきた。同研究チームは現在、光合成を進めるタンパク質プラストシアニンに着目して研究を進めている。プラストシアニンは、光合成の2つの主要な光化学反応系のうち「PS1(光化学系1)」と呼ばれタンパク質複合体と一緒になって機能する分子で、電子伝達体として働く。本来の藻類では、PS1タンパク質複合体がプラストシアニンから電子を受け取り、他のタンパク質に電子を受け渡して、最終的にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(NADPH)を作りだす。NADPHは糖の合成に直接使われる。

 アルゴンヌの研究チームはPS1にPtナノ粒子を結合すると、ナノ粒子がPS1から電子を受け取り、周囲に存在するH(水素イオン)を還元して水素を生成できるのではないかと考えた。実際に、大量の水素ガスを発生させることに成功した。

 次の課題は、Ptよりも安価な金属材料を使ったナノ粒子触媒を利用して、水素燃料を生成することだ。コストを低減することで、水と太陽光から生成した水素燃料を産業レベルで利用できるシステムの構築を目指す。

【翻訳 滝本麻貴、編集 @IT MONOist】

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