理化学研究所は、大腸菌にレーザー光を照射した際に散乱する光を利用して、薬剤耐性大腸菌の種類を非染色・非侵襲・短時間で、ほぼ100%判別する方法を開発した。
理化学研究所は2018年7月17日、大腸菌にレーザー光を照射した際に散乱する光(ラマン散乱光)が、大腸菌が持つ薬剤耐性の違いによって異なる特徴を示すことを明らかにしたと発表した。この現象を応用して、薬剤耐性大腸菌の種類を非染色・非侵襲・短時間で、ほぼ100%判別する方法を開発した。この研究は、同研究所生命機能科学研究センター チームリーダーの渡邉朋信氏らの研究チームによるものだ。
物質に光を当てると、光は散乱する。その際、物質を構成する分子の振動がエネルギーを光に与えたり、逆に光から奪ったりすることで、散乱光の一部は照射光と異なる波長になる。細胞に光を当てた場合、ラマン散乱光を分光したスペクトルの形状は、細胞内部の分子組成を反映している。逆にスペクトルの形状から細胞種を判別することもできる。
さまざまな抗生物質に対する菌の耐性の違いも、菌の分子組成の違いとして現れると考えられる。同研究グループは、スペクトルの形状から薬剤耐性菌の種類を判別できると予想した。
そこでまず、多種類の試料のラマン散乱スペクトルを自動取得するための「ハイスループットラマン散乱分光装置」を開発した。そして、実験室内での長期培養によって薬剤耐性を持つように進化した10種類の大腸菌株とその親株、合わせて11種類、計約200試料を用意した。
それらの試料のラマン散乱スペクトルを自動取得した結果、11種類のスペクトルは互いに似ているものの、統計的に有意に異なっていた。さらに、主成分分析法と判別分析法を組み合わせた解析法を用いたところ、同種の薬剤耐性大腸菌のスペクトルは近接して分布し、異なる種類の薬剤耐性大腸菌のスペクトルは互いに離れていることが示された。
次に、これらのスペクトルのデータ群を用いて、機械学習によって、未知の薬剤耐性大腸菌のスペクトルがどの薬剤耐性大腸菌のグループに属するかを判別することを試みた。その結果、11種類全て、ほぼ100%の確率で、しかも1試料あたり約10秒という短時間で、判別できた。
さらに、それぞれの薬剤耐性大腸菌の遺伝子の発現パターンと、ラマン散乱スペクトルとの関係を調べたところ、各薬剤耐性大腸菌のいくつかの遺伝子の発現量と、スペクトルのいくつかのピーク強度との間に強い相関があることが分かった。
以上の結果は、未知の菌に光を照射してそのラマン散乱光を見るだけで菌の種類を判別し、さらにその菌の遺伝子の発現パターンまで推定できる可能性を示している。これは、病理診断や環境衛生管理における、正確で迅速な菌種の同定につながるとしている。
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