大阪大学は、血管の内皮細胞ではオートファジーによる細菌の除去ができず、細胞内で細菌が増殖することを発見した。一方で、潜在的には、細菌を除去する能力があることも分かった。
大阪大学は2017年7月7日、血管の内皮細胞ではオートファジーによる細菌の除去ができず、細胞内で細菌が増殖することを発見したと発表した。一方で、血管内皮細胞には、オートファジーによって細菌を除去するための潜在的能力があることも明らかにした。大阪大学大学院 生命機能研究科/医学系研究科 教授の吉森保氏らの研究グループによるもので、成果は同日、米科学誌「PLOS Pathogens」電子版に公開された。
オートファジーは、自らの細胞内の構成成分を分解する仕組みのことで、2016年に東京工業大学 栄誉教授の大隅良典氏がノーベル医学生理学賞を受賞し、注目を集めている。
元来、オートファジーは、栄養不足時にエネルギーなどを確保する経路として知られている。近年では、損傷を受けたミトコンドリアなどの有害因子を分解し、細胞を助けていることが明らかになってきた。皮膚などの上皮細胞では、オートファジーによって細菌を食べて殺していること(ゼノファジー)が判明しているが、上皮細胞以外のゼノファジーについては分かっていなかった。
今回、研究グループは細菌が血管内に入り込んで感染症が重篤化した際に、細菌の感染のターゲットとなる血管内皮細胞でのオートファジーに着目した。
実験ではまず、A群レンサ球菌などの細菌をヒト培養細胞に感染させた。これらは上皮細胞内では増殖しないが、血管内皮細胞では増殖が止まらず細胞死を引き起こした。侵入した細菌を電子顕微鏡で撮影すると、血管内皮細胞ではオートファジーによる細菌の除去ができず、それによって細胞内で細菌が増殖することが分かった。
また、血管内皮細胞では、ユビキチンというタンパク質が細菌にうまく付かず、オートファジーの機構が細菌を認識できていなかった。通常ユビキチンは、細胞内に侵入した細菌に付き、オートファジーの食べる目印になる。そのため、細菌をユビキチンでコーティングしてから血管内皮細胞に感染させたところ、細菌はオートファジーによって除去された。このことから、細菌の除去は細菌を識別するシステムの問題であり、潜在的には細菌を分解する能力が備わっていることが分かった。
この成果から、血管内皮細胞のオートファジーが感染症治療のターゲットとなり得ることが明らかになった。今後は、なぜ血管内皮細胞内では侵入した細菌にユビキチンが付けられないのかを解明、また、血管内皮細胞で細菌に特異的なオートファジーを誘導する方法を見出すことで、感染症の新しい治療法の開発につながることが期待される。
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