エビデンスの質が問われる糖尿病領域のモバイルヘルス海外医療技術トレンド(36)(2/2 ページ)

» 2018年06月29日 14時00分 公開
[笹原英司MONOist]
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糖尿病領域の医薬品で先行するリアルワールドエビデンス研究

 他方、糖尿病領域の医薬品分野では、グローバル製薬企業を中心に、リアルワールドデータを利用した国際臨床評価研究が進んでいる。

 例えば、欧州のアストラゼネカは、本連載第32回◇で紹介した北欧諸国間のヘルスデータ連携をベースに、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬の治療を受けた2型糖尿病患者を対象とするリアルワールドエビデンス研究「CVD-REAL」を、各国研究機関と共同で展開してきた(関連情報)。この研究の一環として、対象患者の心不全による入院率(解析対象:デンマーク、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、英国、米国)ならびに総死亡率(解析対象::デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、英国、米国)のリスクを分析した結果を、2017年3月19日の第66回米国心臓病学会年次学術集会で発表している(関連情報)。

 さらに2018年3月11日には、世界6カ国(オーストラリア、カナダ、イスラエル、日本、シンガポール、韓国)のSGLT2阻害薬の治療を受けた2型糖尿病患者を対象として、心不全による入院率および総死亡率に加え、心筋梗塞発症率、脳卒中発症率のリスクを分析した結果「CVD-REAL 2」を、第67回米国心臓病学会年次学術集会 のlate breakerで発表している(関連情報)。

 同じ2型糖尿病患者向けSGLT2阻害薬の領域では、ジョンソン・エンド・ジョンソングループのヤンセンファーマが、大規模臨床試験「CANVASプログラム」のデータをベースとして、ボディマス指数(BMI)、HBA1c、腎機能レベルなどの評価項目を加えたリアルワールドエビデンス研究の成果を、2018年6月下旬の第78回米国糖尿病学会(ADA)で発表している(関連情報)。

 このように、リアルワールドエビデンスの世界では、医薬品主導で、糖尿病向け機器・アプリケーションから生成されたデータを、循環器系、脳神経系、消化器系など、異なる領域で生成されたデータと統合・連携させて分析するケースが増えている。

データを生成する側の医療機器業界とデータを解析・利用する側の医薬品業界との間で、データ品質に対する認識をすり合わせることが必要だ。加えて今後は、異なる領域の医療機器や医療アプリケーション間で、取扱うデータの相互運用性やバリデーションに関するルールを標準化・共通化することも必須課題となるだろう。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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