他方、糖尿病領域の医薬品分野では、グローバル製薬企業を中心に、リアルワールドデータを利用した国際臨床評価研究が進んでいる。
例えば、欧州のアストラゼネカは、本連載第32回◇で紹介した北欧諸国間のヘルスデータ連携をベースに、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬の治療を受けた2型糖尿病患者を対象とするリアルワールドエビデンス研究「CVD-REAL」を、各国研究機関と共同で展開してきた(関連情報)。この研究の一環として、対象患者の心不全による入院率(解析対象:デンマーク、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、英国、米国)ならびに総死亡率(解析対象::デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、英国、米国)のリスクを分析した結果を、2017年3月19日の第66回米国心臓病学会年次学術集会で発表している(関連情報)。
さらに2018年3月11日には、世界6カ国(オーストラリア、カナダ、イスラエル、日本、シンガポール、韓国)のSGLT2阻害薬の治療を受けた2型糖尿病患者を対象として、心不全による入院率および総死亡率に加え、心筋梗塞発症率、脳卒中発症率のリスクを分析した結果「CVD-REAL 2」を、第67回米国心臓病学会年次学術集会 のlate breakerで発表している(関連情報)。
同じ2型糖尿病患者向けSGLT2阻害薬の領域では、ジョンソン・エンド・ジョンソングループのヤンセンファーマが、大規模臨床試験「CANVASプログラム」のデータをベースとして、ボディマス指数(BMI)、HBA1c、腎機能レベルなどの評価項目を加えたリアルワールドエビデンス研究の成果を、2018年6月下旬の第78回米国糖尿病学会(ADA)で発表している(関連情報)。
このように、リアルワールドエビデンスの世界では、医薬品主導で、糖尿病向け機器・アプリケーションから生成されたデータを、循環器系、脳神経系、消化器系など、異なる領域で生成されたデータと統合・連携させて分析するケースが増えている。
データを生成する側の医療機器業界とデータを解析・利用する側の医薬品業界との間で、データ品質に対する認識をすり合わせることが必要だ。加えて今後は、異なる領域の医療機器や医療アプリケーション間で、取扱うデータの相互運用性やバリデーションに関するルールを標準化・共通化することも必須課題となるだろう。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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