東海大学は、新規人工インスリン「セレノインスリン」の化学合成に成功した。インスリン分解酵素による分解速度が天然インスリンより遅く、糖尿病の治療薬としての応用が期待される。
東海大学は2017年4月12日、新規人工インスリン「セレノインスリン」の化学合成に成功したと発表した。インスリン分解酵素(IDE)による分解速度が天然インスリンより著しく遅く、糖尿病の治療薬としての応用が期待される。
インスリンは、2本の異なるポリペプチド鎖(A鎖/B鎖)が、硫黄原子(S)同士の「ジスフィルド(SS)結合」によって安定化されている。A鎖とB鎖を人工的に結び付ける従来の研究では、それぞれに含まれる硫黄同士が結合してしまい、インスリンはうまく合成できなかった。
同研究では、A/B両鎖の硫黄原子の1つをより反応性の高いセレン原子(Se)に置き換えることで、両鎖を「ジセレニド(SeSe)結合」で架橋したセレノインスリンを合成することに「世界で初めて」(東海大学)、成功した。まず、Se含有インスリンA鎖およびB鎖の化学合成を行い、各ペプチド鎖を最適な条件下で混合・反応させることで、目的のセレノインスリンを最大27%の単離収率で得た。
次に、X線結晶構造解析によって3次元立体構造を解析したところ、セレノインスリンは天然のインスリンとほぼ同じ立体構造を持っていることが分かった。さらに、セレノインスリンによる細胞刺激応答を観察し、その生理活性を評価した結果、セレノインスリンは“インスリン”としての生理機能を保持していることが判明した。
また、インスリンを投与すると血流によって体内を循環し、最終的に腎臓内でIDEによって分解され、尿として排出される。そこでIDEを用いて、天然インスリンとセレノインスリンの分解実験を行ったところ、セレノインスリンは天然インスリンよりも分解速度が著しく遅いことが分かった。
これらの結果から、セレノインスリンは体内での薬効が長時間持続すると考えられる。そのため、長時間にわたって体内で循環・作用し、インスリンの基礎分泌を補助する新しい持効型インスリン製剤への応用が期待でき、将来的には患者の投薬負担が減らせるという。
同研究は、同大学理学部の荒井堅太講師と岩岡道夫教授、東北大学多元物質科学研究所の稲葉謙次教授、大阪大学蛋白質研究所の北條裕信教授らの研究グループによって行われた。成果は同月10日付でドイツの国際化学誌「Angewandte Chemie International Edition」電子版に掲載された。
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