慶應義塾大学は、尿のメタボローム解析とAIを使って、従来よりも高精度に大腸がんを検出する方法を開発した。今後は、大規模な症例データでの精度検証の実施など、実用化に向けた研究開発を進めていく。
慶應義塾大学は2018年3月8日、尿のメタボローム解析(生体内の数百種類の代謝物を一斉に測定する技術)とAI(人工知能)を使って、従来よりも高精度に大腸がんを検出する方法を開発したと発表した。同大学先端生命科学研究所 特任教授の杉本昌弘氏らの研究チームが、東京医科大学と共同で行った。
大腸がんは、多くの症例で大腸ポリープからがんになるといわれる。大腸ポリープは内視鏡的切除での根治が可能で、早期発見、早期治療が重要となる。大腸ポリープやがんの発見を目的とする現時点での唯一の方法は、検診で便潜血反応を行うことだ。血中の蛋白マーカーのCEAをはじめ、他の腫瘍抗原は感度、特異度ともに大腸がん発見のスクリーニングテストとして精度に限界がある。このため侵襲性が低く、感度・特異性が高く、簡便かつ安価な測定方法の確立が求められていた。
同研究では、大腸がん患者、ポリープ患者、健常者から尿検体を集め、液体クロマトグラフィー質量分析装置を用いてイオン性の強い尿中代謝物を測定。その結果、がん患者は代謝物の一種であるポリアミン類の濃度が他者に比べて高くなっていることを突き止めた。
また、既知のポリアミンN1、N12-diacetylspermineと呼ばれる物質に加え、患者ごとに異なる濃度パターンを示す別のポリアミン類の分子を観測し、これらの組み合わせをAIに学習させ、高精度に識別を行うことに成功した。
さらに、検体採取による検査の弱点とされる、尿の代謝物が採取時間などの影響を受けて変動する点、他の良性疾患と区別がつかないなど特異性が低い点、単独の分子マーカーでは感度や特異度が低い点を改善。尿検体で大腸がんのスクリーニングができる可能性を示した。
今後は、大規模な症例データでの精度検証の実施、高精度で簡便な測定方法とシステムの開発など実用化に向けた研究開発を進めるとしている。
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