次のような項目は余裕時間に含めず、別途に取り扱う方が良いとされています。
(1)作業標準に定められた以上の余分な仕事の処理時間
例えば、1日30分を超える待ち時間、機械設備や工具の修理など。
(2)部品などの運搬
例えば、作業エリアに部品をまとめて運び入れたり、空箱を回収したりする作業は、作業時間の一部として取り扱った方がよい場合と、余裕時間に含めた方がよい場合があります。その判別は状況に応じで行いますので、ここでの説明は割愛します。
(3)作業者の責任に起因する遅れ
作業者の恣意的な原因による時間が該当します。例えば、作業者自身に起因する不良の手直しなどによって失われた時間、疲労余裕・個人余裕として認められた余裕時間以上の過剰な時間、作業開始の遅れや早じまいなどです。これらの時間は標準時間として補償すべき事項ではありません。作業者自身の作業能率として扱うべき性質のものです。
(4)避けることが可能な遅れの時間
例えば、改善によって排除できる手待ち時間、作業者の責任に帰属しない材料不良による手直しなどのムダ時間、治工具や機械設備の欠陥によって発生したムダ時間などが該当します。まだ改善されずに残った状態であれば余裕時間に含めておく必要があります。
(5)作業サイクル外の要素
作業のサイクル毎には発生しなくても、何回かに1回は必ず発生する作業サイクル外の要素は余裕時間には含めず付帯作業としてとして扱います。それらの時間は発生頻度によってサイクルタイムに配分します。
(6)停電など、仕事に関係のない遅れ時間
余裕率の表し方には、外掛け法と内掛け法の2種類があります。また、その数値の単位は、時間で与えられることもありますが、一般的には比率(%)で与えられます。
(1)外掛け法
正味時間に対する割合(%)でいう場合を“外掛け法”といいます。標準時間を算出する際に、正味時間に余裕率を乗じて求める場合に用いる方法です。外掛け法を用いる場合が多いようです。
(2)内掛け法
1日の作業時間(実働時間)の中、または標準時間全体の中で余裕時間の占める割合(%)で表す場合に使用されます。稼働分析の結果から、余裕率を算出する場合によく用いられます。
余裕率は、算定対象の職場に対して数週間から数カ月程度を費やして調査・算定した結果を用いますが、目安として以下に、ある作業職場を過去に調査した各余裕率を参考までに記しておきました。
とりわけ、作業余裕と職場余裕については、稼働分析によってその職場や作業にどの程度の余裕率を設定すればよいかを検討します。この場合、稼働分析の結果から作業余裕と職場余裕に属する作業要素を取り出して集計するのではなく、この中には一般に作業時間にも余裕時間にも属さない無効要素が多く含まれています。これらの無効要素をどのようにすれば改善できるかを検討して有効要素に変換していく改善をしていくことが大切です。
作業方法を標準化し、それでもなお解決できない“避けられない遅れ”のみを余裕時間として扱うようにします。余裕率を算出する前に作業改善を行うことは、標準時間を高い精度で経営指標として運用していくために重要な位置付けとなります。
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標準時間は、最適な計画と統制、公正な評価など、科学的経営を行うための基本的な重要な基本要素ですので合理的に設定されなければなりません。標準時間の構成要素の1つでもある「余裕時間」は、不要な時間や、ムダな時間という意味ではなく、仕事を遂行する上で発生するやむを得ない要素、避けることができない遅れのことをいいます。
一般に、作業余裕と職場余裕に関しては、これらを大きな値に設定してしまうと、それだけ管理があいまいになり、少しぐらいの遅れ状態の変化や作業者の働きぶりは、各種の管理データに敏感に現れることが少なくなります。従って、余裕率は小さい値に設定しておく方が望ましく、一般には10〜20%程度がよいとされています。
仮に、20%を上回ることが判明した場合は、余裕時間として扱う遅れ時間が余り発生しないようにあらかじめ改善をしておかなければなりません。予備観測の終了時におおむね推定できますので、この時点で観測を中断して何らかの改善を行ってから観測の再スタートを行ってください。
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MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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