レアアース泥開発推進コンソーシアムでは、レアアース泥から得られた資源による新素材開発も進めている。担当しているのは、青山学院大学 理工学部化学・生命科学科 教授の長谷川美貴氏である。
先述したように、レアアースは日本が得意とするハイテク産業の中核を成す製品に広く利用されている。レアアース泥によって、レアアースが安価かつ安定的に供給されるだけでも日本の製造業にとって大きなメリットになるが、レアアースを使って新しい価値ある製品を作り出すことも重要だ。
長谷川氏は「地球上にはさまざまな元素が存在しているが、レアアースは少ない量でより多くの性能を引き出せるという点で極めて魅力的だ。光の性質、磁石の性質、電気を制御する機能を持つとともに、複数の機能を有する元素もある」と語る。
この多機能なレアアースの力をさらに引き出すために、長谷川氏が研究を続けてきたのがレアアースと有機化合物との錯体形成である。この錯体形成によって、有機分子にためたエネルギーをレアアースに移動させるなどして、さまざまな効果を得られるようになるからだ。ただしレアアースは、銅や鉄とは異なり、有機化合物との錯体形成が難しいとされている。
長谷川氏は2014年、レアアースの周りに有機分子がらせん状(ヘリカル)に巻き付く有機錯体を開発。その形状から“ジャイロ錯体”とも呼ばれるこの有機錯体からは、有機分子が巻き付く平面に対して垂直方向に互いが結合して、直線状の分子を作り出すことができる。レアアースの種類が異なるジャイロ錯体も直線状につなげられるので、物性も制御しやすいという。
例えば、ジャイロ錯体から成る分子を発光材料として利用する場合、レアアースがユーロピウムの場合は赤色に発光するが、テルビウムは緑色に発光する。そこで、ユーロピウムとテルビウムのジャイロ錯体を混ぜて作成した分子を用いると、オレンジ〜黄色の発光に変わる。つまり、同じ形状の分子でありながら、分子を合成する際の割合を変えるだけで発光色を制御できるわけだ。これらの特性をLEDやレーザーに応用すれば、新たな価値を生み出す可能性がある。
1次元の直線状に結合するジャイロ錯体は、ナノ粒子の表面に有機分子を被覆することにも応用できる。これにより、可視光から発電できる太陽電池の開発につなげられるという。また、MRI(磁気共鳴画像)装置の造影剤などにも応用できる可能性がある。
もちろん、南鳥島EEZのレアアース泥からは、レアアースだけでなくスカンジウムも取れるので応用範囲は多岐にわたる。加藤氏は、「レアアース泥は単なる海底資源というだけでなく、国内にレアアース産業を創成するきっかけにもなる。そのためにも、採泥・揚泥の技術開発の確立に向けた実証実験をできるだけ早期に行えるようにしたい」と述べている。
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