資源小国の日本だが、日本を取り囲む海にはさまざまな資源が眠っている。それら海洋資源の1つとして注目されているのが、高品質なレアアースを大量に含む海底の泥「レアアース泥(でい)」だ。南鳥島沖のレアアース泥には、国内需要3000年分のレアアースが含まれているという。レアアースを使った新たな製品につながる技術開発も進んでいる。
日本は島国であり、米国や中国、オーストラリアなどとは異なり資源大国を目指すのは難しい。だからこそ、資源を使って新しいモノを作る製造業が発展したわけだが、自国内でさまざまな資源を産出できたほうがより良いことは確かだ。
特に近年、製造業の大きな課題になっているのが、製品に用いる資源の安価かつ安定な調達である。例えば、中国の輸出制限によって、EV(電気自動車)など向けの永久磁石モーターに用いられるレアアースが高騰したことは記憶に新しい。EV関連では、リチウムイオン電池に用いられるリチウムやコバルトについても同様のことが起こりつつあるといわれている。
資源小国といわれる日本だが、実は資源大国になる可能性がある。日本を島国たらしめている海にさまざまな資源が眠っているからだ。それら海の資源の1つとして注目されているのが、高品質なレアアースを大量に含む海底の泥「レアアース泥(でい)」である。
レアアース泥とは、2011年に東京大学大学院工学研究科 エネルギー・資源フロンティアセンター 教授の加藤泰浩氏らが発見した新たな海底鉱物資源だ。太平洋の深海底に、中国などにある陸上鉱山と比べて2〜5倍のレアアース濃度の泥が10〜70mの厚さで分布していることが発見されたのだ。さらに2013年には、南鳥島のEEZ(排他的経済水域)内の海底で、中国鉱山の約20倍となる7000ppmの超高濃度レアアース泥が発見されている。
加藤氏は「日本のレアアース原料市場は年間約500億円程度で、これらは海外から輸入している。しかし、レアアースを用いるレアアース製品の市場規模はその100倍の年間5兆円に達する。レアアース製品には、永久磁石だけでなく、LEDやレーザーなどの発光材料、水素吸蔵合金、研磨剤、MRI造影剤、医薬品やゴムの合成触媒などがあるが、これらは日本が得意とするハイテク産業の中核を成している。生命線といってもいい」と語る。
レアアース泥の特徴は大まかに分けて5つある。1つ目はレアアース含有量が多いことだ。特に、より価値が高いといわれているジスプロシウムやテルビウム、イットリウムなどの重レアアースを多く含んでいる。
2つ目は、太平洋に広く分布しており、資源量が膨大なことである。陸上埋蔵量の1000倍にも達するという。3つ目は資源探査の容易さになる。海底表面にあるレアアース泥は、広さ1000km2を囲む4点を探査するだけで資源量を把握することが可能だ。
4つ目はトリウムやウランなどの放射性元素をほとんど含んでいないことだ。陸上鉱山の場合、レアアース鉱床に放射性元素が含まれており、レアアース抽出後に残るこれらの廃棄物処理が大きな問題になっている。レアアース泥は、通常の岩石よりも放射性元素の含有量が少なく「放射性元素の処理がいらない“クリーンな資源”だ」(加藤氏)。5つ目はレアアース抽出の容易さである。常温の希酸に短時間浸すだけでレアアースのほとんど全てを抽出できる。
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