日本IBMがクラウドサービス「IBM Cloud」とAI「Watson」の事業方針を説明。同社 取締役 専務執行役員 IBMクラウド事業本部長の三澤智光氏は「日本国内でトップ3のクラウドを挙げるときにIBMの名前が入るようにしたい」と述べ、オンプレミスからのクラウド移行の対応力を強調するとともに、パートナーとの連携も強化する方針を示した。
日本IBMは2018年2月19日、東京都内で会見を開き、クラウドサービス「IBM Cloud」とAI(人工知能)「Watson」の事業方針を説明した。同社 取締役 専務執行役員 IBMクラウド事業本部長の三澤智光氏は「日本国内でトップ3のクラウドを挙げるときにIBMの名前が入るようにしたい」と述べ、オンプレミスからのクラウド移行の対応力を強調するとともに、パートナーとの連携も強化する方針を示した。
三澤氏は、国内の企業ユーザーへのアンケートを基にした調査会社のアンケート結果や、米国Forbesのクラウド関連の連載記事を紹介し、メガクラウドベンダーとしてIBMへの期待が高まっていることを説明。「国内ではIBMのクラウドサービスを検討している企業が増えている。グローバルでも、売上高で160億米ドルを超えるクラウドベンダー3社の1つになっていることを含めて高い評価を得ている」(三澤氏)という。
とはいえIBMのクラウド事業は、先行するアマゾン(Amazon)やマイクロソフト(Microsoft)と比べれば後発となる。グローバルではトップ3としているが、国内では前述の2社に加えグーグル(Google)をトップ3と呼ぶことが多いのが現状だ。
三澤氏はこの現状を打破するための事業戦略として「既存システムのクラウド化、クラウドネイティブなアプローチの推進」を打ち出した。同氏は「米国では、スタートアップやベンチャーを中心に、全てのITシステムをクラウドで立ち上げるクラウドネイティブカンパニーの事例が多く聞かれる。しかしクラウドは彼らだけのものではない。そうではない一般企業に向けて展開するのがIBMのクラウドだ」と説明する。
ここで言う一般企業とは、オンプレミスでITシステムを構築してきた企業のことだ。ミッションクリティカルで、セキュリティと高可用性を重視し、運用/管理スキームを確立したITシステムであり、IBMは「SoR(Systems of Record)」と定義する。一方、クラウドネイティブとされる新しいタイプのアプリケーションについては「SoE(Systems of Engagement)」とする。「国内企業の9割はSoRをそのままクラウドへ移行(リフト)しつつ、新たなビジネスを生み出すデジタルトランスフォーメーションのためにSoEを活用したいと考えている。2016年からこの動きは始まっているが、SoRとSoEという特性の異なる2種類のアプリケーションをクラウド化し、双方の連携もとれるようにするのがIBM Cloudの最大の特徴だ」(三澤氏)という。
SoRでは、ミッションクリティカルであることに対応するための非機能要件が多い。オンプレミスからクラウドに移行する場合、アプリケーションは移行できても、これら非機能要件をそのままクラウドに移植できないため、アプリケーションそのもので対応する必要が出てくる。これに対してIBM Cloudは、非機能要件を変更することなくそのままベアメタル上に移行できるので、円滑なクラウドへの移行が可能になる。
SoRのリフトの分かりやすい事例とするのが、IBMの「オンデマンドでエラスティック」(三澤氏)なベアメタルを用いた、仮想化プラットフォーム「VMware」環境のクラウドへの移行だ。「VMware on IBM Cloud」としてサービスを提供しており、富士フイルムなどの大手製造業の採用事例もある。また、VMware関連では、オンプレミス環境とIBM Cloudの間でVMwareのワークロードを移行する「VMware Hybrid Cloud Extension on IBM Cloud」の提供も始めた。「既存システムをクラウドへ“ジャストリフト”するサービスであり、国内ではしばらくは日本IBMしか提供できない」(三澤氏)としている。
クラウドネイティブなSoEについても、オープンスタンダードに基づくコンテナ技術への対応の推進により、「エコシステムが作りやすく、ベンダーロックインもない。IBMのソフトウェアもコンテナ化しており、既存ユーザーのクラウド移行を推し進められる体制が整いつつある」(三澤氏)とした。
また、クラウドにAIなどのプラスアルファを提案してビジネス価値を高める「Cloud+」や、「IBM Cloud」の国内展開を推進するパートナー制度「IBM Cloud Partner League」などで展開を拡大していくとした。
国内でクラウド事業を拡大していく上で、大きな産業分野である製造業への展開は不可欠だ。IBM Cloudは、富士フイルムの事例のように大手の採用が増えつつあるものの、中堅〜中小向けの販路は強いとはいえない。三澤氏は「大手企業との実績を積み重ねていき、その知見やノウハウを展開できるようにしたい。併せて、パートナーの支援も得ながら、当社のデジタル営業部隊による提案活動にも注力していく」と述べている。
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