名古屋大学は、湾曲したナノグラフェンを水溶化する方法を開発し、これがヒト培養細胞の細胞小器官に局在し、光によって細胞死を誘導する機能を持つことを解明した。
名古屋大学は2018年1月31日、同大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 教授の伊丹健一郎氏らの研究グループが、湾曲したナノグラフェンを水溶化する方法を開発し、これがヒト培養細胞の細胞小器官に局在し、光によって細胞死を誘導する機能を持つことを解明したと発表した。
湾曲ナノグラフェンは、2013年に伊丹氏らが開発した分子ナノカーボンだ。さまざまな有機溶媒に対して高い溶解性を持ち、紫外光や青色光を照射すると緑色の蛍光を発するという性質がある。このことから、既存のナノカーボンとは異なる応用が期待されていた。
まず、研究グループは、湾曲ナノグラフェンを自在に化学修飾する手法を確立した。イリジウム触媒を用いたホウ素化反応を利用して湾曲ナノグラフェンの5カ所のベンゼン環にホウ素官能基を導入。続いて鈴木カップリング反応によって、5つのホウ素官能基全てをエチレングリコールユニットに置き換えた。
得られた湾曲ナノグラフェンは、有機溶媒だけでなく水に対しても高い溶解性を持つ「水溶性湾曲ナノグラフェン」だと分かった。水溶性湾曲ナノグラフェンは、高い光耐久性、水溶液中でも蛍光を保持すること、溶媒の極性に応答して蛍光色が変化する性質があることを明らかにした。
さらに、水溶性湾曲ナノグラフェンがヒト培養細胞に取り込まれ、リソソームという細胞小器官に蓄積すること、そこに、レーザー光を照射すると、光刺激を受けた細胞だけが死滅する現象が起きることを発見した。
本研究により、湾曲ナノグラフェンにさまざまな性質を容易に付与でき、それが生命科学分野のツールとして利用できることを解明。ナノカーボンの構造を持つ分子を精密に合成する「分子ナノカーボン科学」の幅広い応用の可能性が広がった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.