1つ補足しておきたいが、いくら技術が進歩したとしても、大型衛星を全て超小型衛星で置き換えられるものではない。
例えば、地球観測衛星の場合、地上分解能は望遠鏡の口径に依存する。30cm程度の高分解能撮影には大きな望遠鏡が必要で、超小型衛星への搭載は難しい。また静止軌道の通信衛星も大出力のため、大きなアンテナや太陽電池パドルが必要になる。超小型衛星は大型衛星を置き換えるものではなく、お互いのメリットを生かして補完し合える存在なのだ。
超小型衛星のメリットは、前述のように低コストなことだ。大型衛星の開発には数百億円規模の費用がかかるが、超小型衛星はそれより2桁ほど安いので、新しいことに挑戦しやすい。超小型衛星で新技術やビジネスモデルを実証してから、大型衛星に適用していくこともあるだろう。
超小型衛星の可能性にはJAXAも注目。新技術の実証をサポートする「革新的衛星技術実証プログラム」を実施しており、2018年度に、イプシロンロケットで1回目の打ち上げが行われる予定だ。搭載する7機の衛星の中には、ベンチャー企業ALEが開発した人工流れ星衛星も入っており、宇宙の新しい使い方が誕生するかもしれない。
また超小型衛星は安く作れるので、大型衛星1機分の予算があれば、よりたくさんの衛星を作ることができる。「質より量」で勝負できる用途があれば、これは大きな強みとなる。
多数の衛星を軌道上に配置する運用を「コンステレーション」と呼ぶが、超小型衛星はこのコンステレーションに向いている。例えば、地球観測に使えば、高頻度の撮影が可能になる。数m程度の分解能があれば、企業のマーケティング活動や、競合他社の動向の分析などにも活用できるだろう。
先行するのは米国のPlanet Labs(プラネット・ラボ)だ。既に、3Uサイズ(10×10×30cm)のキューブサット「Dove」を175機以上も打ち上げており、サービスの提供を開始している。またアクセルスペースは、50機の衛星による地球観測網「AxelGlobe」を2022年に完成させる計画で、2018年中に、最初の「GRUS」衛星3機を打ち上げる予定だ。
コンステレーションの用途は地球観測だけではない。米国のOneWeb(ワンウェブ)は、900機もの衛星コンステレーションにより、全世界にブロードバンド通信を提供することを目指している。2018年中に最初の10機を打ち上げ、2019年に一部地域でサービスを開始。2027年までに、デジタルデバイドの解消を実現するとしている。
超小型衛星の需要はさらに高まると見られており、資金が集まりつつある。アクセルスペースは2015年、シリーズA投資ラウンドで18億円の調達に成功。これをGRUS衛星3機の開発費用に充てる。またOneWebには2016年、ソフトバンクが10億米ドルという巨額を出資したことが大きな話題となった。
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