こうした事例を踏まえて、2017年版ものづくり白書では「自社の強みなどを十分考慮した上で徹底的な検討を行い、データの利活用などを事業戦略のツールとして位置付けることが期待される」と説明する。また、特に重要なこととして、生産性向上にとどまらず、新たな付加価値の獲得に向けて積極的に新たなビジネスモデルの展開にチャレンジすることを挙げている。
現在は、単にいい「モノ」を作るだけでは生き残れない時代に入り、「ものづくり+(プラス)企業」になることが求められている。また、顧客価値の実現の手段が、技術革新によって「モノの所有」から「機能の利用」へと変化。モノを他のモノやサービス、情報と結び付けて一層の価値拡大を図るなど、利活用方策である「サービスソリューション」が差別化要因となっている。
モノづくりに加え、さらにサービス・ソリューション展開を図るためには、「顧客起点」で考えることが鍵となる。また、第4次産業革命への対応には、全体を俯瞰して「全体最適」を目指すシステム的アプローチが重要であるという。これらに対応するには、「デザイン思考(what to make)」と「システム思考(how to make)」の双方を習得した高度人材が求められており、国内においても、大学などでそうした人材育成プログラムの取り組みがみられ、さらなる活性化が期待されると論じている。
製品のライフサイクルが短くなる中、顧客ニーズへの迅速な対応には、俊敏(アジャイル)な経営が重要となる。その手段として外部経営資源の積極活用が考えられるが、2017年版ものづくり白書によると、活用企業の割合は3割程度にとどまり、オープンイノベーションの取り組みもここ10年で変化がない企業も多いことが明らかになった。
最近では、日本の製造業が買い手となるM&A件数なども増加している。特に、国内企業が海外企業を買う件数が過去最高件数になっており、ベンチャー企業へのM&Aも産業全体で年々増加するなど新たな動きも見られる。また、地域の中小企業が連携してモノづくり支援体制を構築し、ベンチャー支援などを有効に行う事例も増えており、ベンチャーの斬新なアイデアや技術を、中小企業などが培った強いモノづくり力を活用して実用化を目指す動きも見られる。
伸縮性のある生地に配線とゆがみを認識するセンサーを埋め込んだ「洗えるIoTシャツ」を開発。モーションキャプチャーが可能となり、スポーツやゲームなどで利用できる。
予防医療を中心とするメディカルサービスでの展開を予定しているという。オープンイノベーションを重視し大企業のリソースを利用するため、国内アパレル会社と共同で製造を実施している。
2017年版ものづくり白書では、単純に現場の人間の代替だけを企図してITやロボットなどを活用するのではなく、付加価値の高い仕事に移行することを促し、生産性の向上や労働時間短縮による働き方改革につなげるような取り組みが重要になると説明している。
また、IoTによる現場の見える化を通して、日本が得意とする「カイゼン」活動のさらなる加速の実現も可能となり、現場だけではなく、ホワイトカラーの業務、特に間接部門業務の生産性向上を目指した取り組みも重要であるという。
さらに、IoTを活用した熟練技術のマニュアル化やデータベース化は、現場力の向上にも寄与。熟練技術をデジタル技術と融合させることで、今まで職人の勘に頼ってきた生産を、再現性高くシステム的に実現することが可能になってきた。一方で、熟練人材そのものの育成も、企業を超えての取り組みの重要性が増している。
日本のモノづくりの課題である「付加価値創出・最大化」、さらには、これまで強みであったが人材不足などの課題が顕在化しつつある「強い現場の維持・向上」の観点からも、今後、IoTなどのデジタルツールの利活用が鍵を握る。既にさまざまな取り組みが開始されているが、これら取り組みをさらに活性化するには以下の環境整備を進めることも重要だと説明する。
本連載で紹介してきたように、弱みである「付加価値の創出・最大化」については、顧客ニーズに即したソリューション型の組織への見直しやオープンイノベーション、外部経営資源活用と俊敏経営による「ビジネス変革」がその克服につながる。また、強みである「現場力の強化・維持」については、ロボット、ITなどの技術の活用による効率化と働き方改革を実現し、デジタル化によるスムーズな技能継承などによる「プロセス変革」が求められていることが明らかになった。
日本のモノづくりの現状を示す「ものづくり白書」を読み解くことで、日本の製造業が今後も世界をけん引するための手掛かりを得ることができるだろう。ぜひ参考にしてほしい。
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