第4次産業革命といわれるIoTなどを活用した産業変革が加速している。この新たな波を捉えるべく各国政府の取り組みが進む。日本でも2017年3月に「Connected Industries」を発表。さらにドイツとの間では「ハノーバー宣言」で連携強化を図る。これらの動きに関わってきた経済産業省 製造産業局局長の糟谷敏秀氏に日本の製造業の現在地を聞いた。
ドイツの「インダストリー4.0」や、フランスの「産業の未来」、中国の「中国製造2025」など、第4次産業革命と呼ばれるIoT(モノのインターネット)などを活用した産業変革を支援する各国政府の活動が加速している。こうした中で日本でも2017年3月に「Connected Industries」を発表※)。2015年頃から取り組んできたこれらの動きに対しあらためて旗印を掲げ、積極的に「日本式」のアピールを行う方針を示している。
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2015年からロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)などの活動に関わり、さまざまな政府間連携などにも取り組んできた経済産業省 製造産業局長の糟谷敏秀氏に、第4次産業革命に立ち向かう日本の製造業の現在地について聞いた。
ITmedia産業5メディア総力特集「IoTがもたらす製造業の革新」のメイン企画として本連載「製造業×IoT キーマンインタビュー」を実施しています。キーマンたちがどのようにIoTを捉え、どのような取り組みを進めているかを示すことで、共通項や違いを示し、製造業への指針をあぶり出します。
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MONOist 第4次産業革命やIoT活用などが広がりを見せています。経済産業省でもさまざまな支援策を展開してきましたが、現状での日本の製造業の取り組みについてどう捉えていますか。
糟谷氏 製造産業局で毎年発行している「ものづくり白書」の作成に向けて2016年12月に行ったアンケートでは「国内工場で何らかのデータ収集を行っているか」という質問に対し、2015年は「はい」が40.6%だったのに対し、2016年は66.6%となり、26%も増加した。こうした状況を見ると、確実に製造現場におけるデータ活用の動きは広がってきている。
糟谷氏 しかし、この動きをさらに掘り下げて見れば日本の製造業において一気にデータ活用が始まったと見るのは早いかもしれない。「収集データの活用」に関するアンケートでは、「工場の見える化」や「生産プロセスの改善」「トレーサビリティ管理」などに対し、活用のレベル感を調査した。しかし、「実施している」「実施を計画している」とした実質的な活用に入った企業の比率は2015年も2016年もほとんど変わっていないからだ。増えているのは「可能であれば実施したい」とした層で、まだまだこれからという段階だ。「意欲は高まっているがまだ活用はできていない」というのが多くの企業の平均的な状況であるといえる。
MONOist IoT活用において、海外ベンダーやコンサルティング企業などから「日本は遅れている」という意見をよく聞きますが、日本の製造業の取り組みは遅れていると考えますか。
糟谷氏 2年前は実際に遅れていたかもしれないが、日本の製造業の取り組みは進んできており、他国の企業と比べても遜色のない領域は多い。ただ、課題はまだまだ存在する。
例えば、日本の製造業がIoT活用で多くの成果を出しているのは「効率化」の領域に偏っており、「売上高拡大」の方向での活用はまだまだ不十分だ。新たなビジネスモデルを作ったり、従来の価値を拡大したりする方向についてはできていないように感じている。
ただ、こうした状況は日本に限った話ではなく、各国の第4次産業革命に対する取り組みでも、課題がまだまだ多いというのが現状だ。日本だけが決して遅れているわけでない。例えば、中小企業のIoT普及は、ドイツや米国でも悩んでいる。日本とドイツは2015年以降、さまざまな協力の枠組み作りを進めてきたが、2015年当初から中小企業のIoT活用拡大は中心テーマとなっており、現在も中心的活動の1つとなっている。
日本では、良い意味でも悪い意味でも大企業と中小企業が同時多発的に第4次産業革命への動きにスタートを切った形で、企業規模に関係なく動く企業は動いている。企業によっては日本の中小企業の方が進んでいる場合もあり、勝てるチャンスは多い。
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