さて、mbed OS自体はそんなわけで順調に進化しており、機能も増えて使いやすくなったわけだが、最も変わったのはmbed OSそのものというよりも、mbed OSの置かれた立ち位置かもしれない。
最初にmbed OSが発表された時のスライド(図4)は、ArmベースのMCUをさまざまなクラウドサービスに接続するための手段がmbed OSであり、これをサポートするものとして「mbed Device Server」が用意される、というものだった。言ってみればこの時点ではmbed OSが「主」の立場であった。
ところが2015年にmbed Device Serverに加えて「mbed Device Connector」が発表され、その後mbed Device Serverの機能はmbed Device Connectorに統合されてしまった。また、MCU向けの「Cortex-M」以外だけでなく、「Cortex-R」や「Cofetex-A」を搭載するデバイスもmbed Device Serverに接続できるようにするための「mbed Client」が発表され、そして2016年末に「mbed Cloud」が発表される(図5)。
この時点でArmはmbed Cloudを主軸に置き直し、mbed OSはそのmbed Cloudを利用するための手段、という具合に変ってきた。つまりmbed Cloudが「主」で、mbed OSが「従」になった形だ。これはArm自身が2017年第2四半期の投資家向け資料の中で、こんなスライド(図6)を出していることでも明らかである。
もちろん、従来のプロセッサIPをはじめとするビジネスは今後も重要な柱であるが、これと並ぶ柱としてIoT(モノのインターネット)向けのクラウドサービスとしてのmbed Cloudを収益のもう一本の柱に育てることを明確に示している。
さらに2017年10月に行われた「ARM TechCon 2017」では新しく「mbed Edge」が発表された(図7)。MPDM(Multi-Protocol Device Management:mbed OS/Client以外のデバイスやプロトコルのサポート)、Edge Compute(クラウド手前のエッジレベルでのコンピューティング)、Gateway Management(ゲートウェイ管理)の機能を提供するもので、2017年中にプレビュー版が提供される予定だ。
この構図は、マイクロソフトが「Azule IoT」に追加した「Azule IoT Hub」に近いものがある。要するに、mbed OS/Clientに限らず、さまざまなデバイスをつなげてIoTサービスを利用できるようにするためのコンポーネントだ。つまり、mbed Cloudは単体でIoTクラウドサービスとして利用できるようにした形だ。
とはいえ、mbed Cloudはやっと2017年10月から商用の利用が開始されたばかりである。先行するアマゾンの「AWS IoT」とマイクロソフトのAzure IoT、それらを追いかけるグーグルの「Weave」とアップルの「HomeKit」、さらにその後ろにmbed Cloudがいるという状況で、かなりのビハインドを負っていることは間違いない。ここからどう巻き返しを図るつもりなのか、がちょっと興味深いところだ。
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