東京大学は、脊椎動物の基本構造が5億年以上の進化を通して変化しなかった要因として、遺伝子の使い回しから生じる制約が寄与している可能性が高いことを大規模遺伝子発現データ解析から明らかにした。
東京大学は2017年9月26日、脊椎動物の基本構造が5億年以上の進化を通して変化しなかった要因として、遺伝子の使い回しから生じる制約が寄与している可能性が高いことを大規模遺伝子発現データ解析から明らかにしたと発表した。同大学大学院理学系研究科 准教授の入江直樹氏らの国際共同研究グループ「EXPANDEコンソーシアム」によるもので、成果は同月25日、英科学誌「Nature Ecology & Evolution」電子版で公開された。
遺伝子の使い回しが新しい特徴を進化させる役割があることは知られていたが、今回の結果は、逆に、遺伝子の使い回しが器官形成期の多様化を制約し、進化を通して変化しにくい脊椎動物の基本構造を作りあげた可能性を示している。遺伝子の使い回しによる進化は、生物において広く普遍的な現象であり、今後「進化しにくい/しやすい生物の特徴」に対する理解が深まることが期待できるとしている。
ヒトを含む脊椎動物は、5億前以上前に出現して以来、さまざまな形に進化してきた。一方で、どの脊椎動物種も体の基本的な解剖学的特徴は現在に至るまでほとんど変わっていない。従来の研究で、胚発生過程のうち脊椎動物の体の基本構造が作られる器官形成期が、進化を通して多様化してこなかったことに原因があると推定されている(発生砂時計モデル、器官形成期がくびれ部分)。しかし、なぜそれが進化を通して保存されるのかについては分かっていなかった。
同研究グループは、脊椎動物を含む8種の脊索動物を対象に、体の形を決める胚発生過程に働く遺伝子の転写産物情報を超並列シーケンサーによって大規模に取得し、コンピュータを用いてデータ解析した。まず、異なる動物間で遺伝子の使われ方を比べたところ、胚発生のうち器官形成期は、脊椎動物登場以来ずっと保存されてきたことが示された。
次に、なぜ砂時計型の多様性が脊椎動物で生じるのかについて、6種の脊椎動物の器官形成期に特異的に働いている遺伝子群を探索した。この時期の胚では数多くの臓器の原基が作られるため、この時期にだけ働いている特異的な遺伝子が多いと予想された。しかし、むしろ他の発生段階でも使い回されている遺伝子群が多数を占めていることが明らかとなった。
さらなる解析で、使い回し遺伝子の比率が高い発生期ほど進化的に多様性に乏しくなること、使い回しの頻度が多い遺伝子ほど生存に必須であること、他の多くの遺伝子と相互作用していること、使い回し遺伝子はより複雑な制御を多く受けていることなども分かった。
つまり、使い回し遺伝子は多数の生命現象に関与するため、機能異常を起こすと関わる全ての生命現象に異常を来し、結果として胚発生プロセスを大きく変えることが難しく、進化を通して多様化しにくいというシナリオが考えられる。ただし、使い回し遺伝子が制約をもたらす仕組みは複数考えられ、使い回し遺伝子群がなぜ器官形成期に集積したのかはまだ不明だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.