インドネシアのモーターショーで特徴的な出展社は、カロセリ以外にもあります。シート表皮を取り扱うメーカーや、表皮の張り替えを手掛けるショップが幾つもブースを構えるのです。どこもビジネスの中心は合成皮革を用いた張り替え需要で、二輪車や四輪車のカスタマイズから観光バスの座席まで、幅広い顧客を持っています。自由に染色できる合皮ならではのビビッドな色彩は、南国らしい華やかさが感じられるものです。
ただし近年は、どのショップからも「ビジネスがだんだん厳しくなってきている」という声が聞かれます。理由を聞くと、そろって口にするのは「自動車メーカー純正のオプションパーツやアクセサリーが充実し、それをディーラーで購入して満足してしまうユーザーが増えてきているから」ということ。そこで自社製品をブランド化し、住宅インテリアなどにも採用できることをアピールするといった試みをするショップも出てきています。
国を挙げて自動車産業の発展と洗練を目指すことは、素晴らしいことです。ただしその一方で、こうした地元ユーザーのローカルな感覚に基づく独自の文化が廃れていってしまうことは、寂しくもあります。これはインドネシアに限ったことではありませんが、グローバル感覚とローカル感覚の双方がバランスよく、ともに成長できるものであってほしいと思います。
古庄速人(ふるしょうはやと)
工業デザイナーを目指し、専門学校の自動車デザイン学科に入学。修了後はカーデザイン専門誌の編集に携わりながら、フリーランスのライターとしても活動を開始。現在は自動車関連誌や二輪誌、Webメディアなどで記事やコラムを執筆中。技術と感性の双方の視点から、さまざまなトランスポーテーションのデザインをチェックしている。また新しい「乗り物」や新興国のモータリゼーションに強い興味を持ち、世界各国のモーターショーやモーターサイクルショーの視察を続けている。日本カーデザイン大賞の選考委員も務める。
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