製造業にとってIoT活用が喫緊の課題となる中、日本国内ではモノづくりの効率向上に適用する事例が先行しており、新たなサービスによって収益を生み出す動きは鈍い。ソフトウェア収益化ソリューションの有力企業であるジェムアルトは「このままでは日本とドイツは『モノづくりの効率化』という同じ落とし穴にはまりかねない」と警鐘を鳴らす。
製造業にとってIoT活用は喫緊の課題となっている。日本国内では、工場での予防保全や、モノづくりの効率向上といったスマートファクトリー的な視点での取り組みが始まっているが、モノとIoTの組み合わせによって新たなサービスを生み出すなど、モノ売りからコト売りへ移行するようなビジネスモデルについては活発に提案されているとはいえない状況だ。
ジェムアルト(Gemalto)は、IoT活用によって生まれる新たなサービスから収益を生み出すための、ソフトウェア収益化ソリューションなどで有力なポジションにある企業だ。このため、各国/地域におけるIoT活用による収益化の進み具合を把握しやすい立場にあるともいえる。同社 ワールドワイドセールス担当バイスプレジデント ソフトウェアマネタイゼーションのアンツガー・ドット(Ansgar Dodt)氏は「ソフトウェア収益化の市場規模でいうと、日本は米国、ドイツに次いで世界で第3位になる。ソフトウェア収益化に向けた取り組みの進み具合で行くと、米国から2〜3年遅れでドイツ、ドイツから2〜3年遅れで日本というイメージだ」と語る。
特に、米国のハードウェアメーカーがソフトウェア志向を強めているという。これは開かれた市場で競争する場合、ハードウェアの製品価格はどんどん安価になっていくことが背景にある。このハードウェアが、IoT活用によって自身の最適化を自動的に行うようになれば価格低下にさらされずに済む。そのためには、ソフトウェアに投資せねばならず、エコシステムの充実を図る必要も出てくる。「ハードウェアメーカーのように見えても、実際にはソフトウェアを作っているメーカーという印象だ。ただし、ソフトウェア投資ありきにもかかわらず、価格設定はハードウェアがベースになっている。その状況からどうやってもうけていくかが課題になるだろう」(ドット氏)という。
IoT時代で先に進んでいるイメージが強い米国だが、ドット氏から見て、米国以外の国/地域の取り組みはどう感じられるのだろうか。同氏は「米国はリスクテイカーで、80%モノができ上がったら次へ次へと進む。日本は最適化を最大限進めることを好む。完成度が99%まできたら100%にしたいと考える。中国とドイツはその中間といったところだろう。ただし、完璧を求める日本にとって、ソフトウェアを中核としたアジャイル開発が必要なIoT活用は苦手かもしれない。当社のソフトウェア収益化ソリューションを購入すればもうかるわけでなく、既存のプロセスを変えていないといけない。いかにして自身を、ソフトウェアメーカーとして振る舞わせられるかが重要だ」と説明する。
また中国については「ソフトウェア収益化の市場規模は日本に次ぐ第4位だが、取り組みは積極的だ。日本やドイツよりもリスクをとるマインドが強い。10年前からアジャイル開発に取り組んでおり、日本やドイツはIoT時代において中国に追い抜かれるかもしれない」(ドット氏)と見ている。
製造業のIoT活用という観点では、ドイツが提唱したインダストリー4.0が重要な役割を果たすという見方が強い。これに対してドット氏は、「IoT活用において、ドイツが米国並みに進んでいるというイメージがあるようだが、リーダーは米国だ。インダストリー4.0は次世代製造技術が中心で、新たなサービスを生み出すという意味ではさらに大きな概念として位置付けられているにすぎない。シーメンスやトルンプがIoTプラットフォームを展開しようとしているがスピード感が足りない。IBM、GE、Google、Amazon、Facebookなど、データを収集するプラットフォームを基にしたビジネスを前提とする企業は、米国が中心的な役割を果たしている」と強調する。
その上でドット氏は、「IoT活用では、新しいビジネスモデルを提供できるかが重要だ。例えば、スマートホーム向けの『Google Home』や『Amazon Alexa』はいい事例だ。工場のモノづくりを効率化する考え方にとどまっていては、日本もドイツも同じ落とし穴にはまるのでないか」と警鐘を鳴らす。
日本国内でもIoT活用による収益化を目指す動きは出ている。ただし大企業よりも、スタートアップ、ベンチャー、中小企業が多い。そういった企業にとって、ジェムアルトのソフトウェア収益化ソリューションは利用可能なのだろうか。いわゆる大手企業しか使えない“お高い”ソリューションではないのか。
この問いに対してドット氏は「ジェムアルトのソフトウェア収益化ソリューションは、スケーラブルなビジネスモデルを採用しており、大企業から中堅・中小企業、スタートアップ、ベンチャーに至るまで利用できると考えている。特に、人的リソースが十分とはいえないスタートアップやベンチャーにとって、ソフトウェアアップデートを自動化する仕組みなどは役立つだろう」と述べる。
「米国のアントレプレナーは、製品がある程度完成したら早々に事業計画の段階に入る。しかし、日本とドイツは、製品を愛しているためか事業計画の段階に入るのが遅い。より早期の段階で当社に相談してもらえれば、その製品によるソフトウェア収益化を図る最適な手段を見いだせるかもしれない」(ドット氏)としている。
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