自動車向けのアプリを開発する場合は、サービスのデジタルモックアップを作成し、実際の車両を用いてテストを行います。これに対し、仮想環境での自動車エミュレーターを用いて車両がどのように応答するかを視覚化し、挙動をテストできるようにしました。その「カーエミュレーター」について紹介します。
前回は、私がドイツのベルリンにあるスタートアップ、HIGH MOBILITY(以下、ハイモビリティ)で働き始めた経緯をご紹介しました。今回は実際にベルリンで作っていたプロダクトと、その際に利用していた「Web Bluetooth API」について紹介します。
ハイモビリティは、自動車メーカーとソフトウェア開発者のコラボレーションをより簡素化するための製品とサービスを提供しています。
自動車産業が近年のデジタル化やインターネットを自動車の構成要素として組み込むには、従来とは異なる新しい開発プロセスが必要になります。ハイモビリティが提供するプラットフォームは、デジタル化が進む時代でも自動車向けアプリケーションを迅速に開発することを目指して設計されています。
開発者は通常、サービスのデジタルモックアップを作成し、段階的に実装を実行、そして、実際の車両を用いてテストを行います。これに対し、ハイモビリティのプラットフォームは、仮想環境での自動車エミュレーターを用いて車両がどのように応答するかを視覚化し、挙動のテストを行えるようにするものです。従来であればテストの度に実際の車両が必要になるところを、自宅やオフィスでアプリケーションの動作確認ができるようになります。
従来の自動車のプラットフォームは、メーカー毎に独立したものでした。外部から隔離されたように設計されていますが、今後は従来の枠を超えたマルチプラットフォームになっていく必要があります。
「iPhone」というプラットフォームに「Facebook」や「YouTube」といったアプリケーションがあるのと同じように、自動車というプラットフォームでさまざまなアプリケーションが利用できるようになるということです。ハイモビリティでは、これらの実現に向け、ArduinoやRasberry Piといった従来のIoT(モノのインターネット)プラットフォームに対応した、フロントエンド及びオフラインでも利用可能なSDK(ソフトウェア開発キット)を提供しています。
こうした説明では非常に抽象的なので、具体的な事例を基に説明していきたいと思います。
スマートフォンのアプリケーションを利用して車両の施錠、解錠を行うケースについてご紹介します。日本でも一部のカーシェアリングサービスを利用された方ならイメージできると思います。
国内で利用されている方式は、スマートフォンのアプリケーションからカーシェアリング事業者のサーバを経由し、サーバからカーシェア車両に搭載されている機器に信号が送信されています。そのため、実際に鍵の開閉のボタンを押してから実際に解錠されるまでは数秒間の待ち時間が発生します。
一方で、自動車メーカーとカーシェアリング事業者がこれから導入しようとしている方式は、スマートフォンと車載機器が、Bluetoothを用いて直接通信をすることで鍵の開閉を行います。車載機器と直接通信をしているため、タイムラグはほとんど発生しません。
世界的に見ても自動車は所有から共有する流れになっており、カーシェアリングなどにおいて車両の貸し借りを安心かつ安全に行える仕組みが必要となっています。2016年10月にはトヨタ自動車が、カーシェアリングを手掛ける米国のスタートアップと「SKB(スマートキーボックス)」と呼ばれる車載機器を開発すると発表しています。
下の動画は、ハイモビリティが2016年10月にパリの展示会でデモを行った時の様子です。スマートウォッチを利用して車両の施錠と解錠を行っています。
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