筆者は20代のエンジニアで、単身でドイツに渡り、ベルリンのスタートアップで働き始めました。そのスタートアップでは、「Web Bluetooth」を活用し、誰もが簡単に自動車向けのアプリケーションを開発できるようにするプラットフォームを提供することに取り組みました。ドイツのコネクテッドカー開発事情やスタートアップの現状について、4回に分けて紹介します。
2016年の春。リクルート社員の私は単身でドイツに渡り、ベルリンのスタートアップでエンジニアになりました。海外で仕事がしたいという希望をかなえるためです。スタートアップでの私の役目は、自動車と連携したスマートフォンアプリの開発で「Web Bluetooth」を活用することでした。
Web Bluetoothは、WebブラウザからBluetoothデバイスを動作できるようにするもので、JavaScriptのコードだけで開発が可能になるメリットもあります。ただし、2015年末にGoogle Chromeに実装されたばかりの新しいAPIだったので、アプリ開発に活用するためにはチームメンバーの誰よりもWeb Bluetoothに詳しくなる必要がありました。
スタートアップといえば、米国カリフォルニア州のシリコンバレーとよく言われていますが、ドイツのベルリンは第2のシリコンバレーとなり得る拠点です。
英国の大手紙ガーディアンによると、2014年にはスタートアップへの投資額が20億ユーロ(約2400億円)を超え、投資額ベースで欧州一の地域です。また、ドイツの首都でありながらも生活コストが比較的安く、英語が通じるため世界中から人々が集まっています。音楽やアートを中心とした街のクリエイティブなカルチャーも人々を引き寄せる要素になっています。
ベルリン発のスタートアップとしては、SoundCloud、Microsoftに買収されたWunderlist、ソーシャルゲームのWoogaなどが有名です。そして毎年500社ほどのスタートアップが新しく生まれています。
私がジョインしたのはHIGH MOBILITY(以下、ハイモビリティ)というスタートアップです。2013年に設立、4年目を迎えたチームです。彼らは、自動車がインターネットにつながる未来を見据え、誰もが簡単に自動車向けのアプリケーションを開発できるようにするプラットフォームを提供することを目指しています。
私が参加した時のチームメンバーは6人でした。本社はベルリンで、エストニアのタリンにもオフィスがあります。ファウンダーのCEOは、プロダクトデザインを専門としており、Volvo CarsやJaguar Land Roverでプロダクトデザインを担当していました。何度か「俺のデザインしたクルマが街中を走っている」と言われたことがあります。
同じくファウンダーのCTOは、Fiat Automobilesなどでエンジニアとしての経験があり、車載情報機器の開発やIoTシステムのアーキテクチャ設計を得意としています。ハイモビリティは自動車業界に精通したメンバーによるスタートアップです。
ハイモビリティでは、Webブラウザから低消費電力無線規格「Bluetooth Low Energy」のデバイスを操作することができる、Web Bluetoothを利用したライブラリの開発を検討していました。CTOもリードエンジニアも、ハードウェアやバックエンドの知識・経験はあるものの、フロントエンドの部分が弱かったので、そこを担える人材を探していたようです。それが、ハイモビリティで働くチャンスになりました。
私が注目していたのは「WoT(Web of Things)」の概念です。近年、IoTが注目されているものの、規格が十分に標準化されていないため、個々のサービスごとに独立したシステムが構築される傾向にあります。そこで、すでに広く普及しているHTML5やJavaScriptなどのWeb技術を使ってIoTを利用したサービスやアプリケーションを開発できるよう標準化するのがWoTの考え方です。「W3C」という特定のベンダーに依存しないオープンな標準化団体が推進していることも特徴です。
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