船乗りだからこそ重視するStarlinkの価値とは船も「CASE」(1/3 ページ)

船舶をはじめとする海運業界で高速衛星通信サービス「Starlink」の導入が進んでいる。国内でStarlinkの船舶利用サービスを推進するKDDIに、海上移動運用に耐え得るハードウェアや、法改正によって利用できる海域の制約が変わった詳細などについて聞いた。

» 2024年12月12日 07時00分 公開
[長浜和也MONOist]

Starlink Business マリタイムプランって「改めて何」

 いま、船舶をはじめとする海運業界で「Starlink」の導入が急ピッチで進んでいる。何をするにもデータ通信が必要となっているのは遠く洋上を行く船舶でも同様だ。とはいえ、陸(と書いてオカと呼ぶ)の世界では、逃れたくても逃れられなくなって久しいブロードバンドネットワーク接続だが、海と空では長らくそうもいかなかった。

 人工衛星によるデータ通信はインマルサットにしてもイリジウムにしても早くて数Mbpsの通信速度しかでない。近年になって人工衛星による高速データ通信サービスが航空機と船舶でも利用できるようになっているが、陸上の高速データ通信と比べてまだ低速だった(インマルサットFXで8Mbps、KuバンドVSATで2Mbps。総務省資料「海上における高速通信の普及に向けて 平成30年3月」の表現を借りれば「通信料金は陸上の40倍。通信速度は陸上の25分の1」)。

総務省資料「海上における高速通信の普及に向けて(最終報告)」で示された2018年時点の海上におけるネットワークインフラの問題 総務省資料「海上における高速通信の普及に向けて(最終報告)」で示された2018年時点の海上におけるネットワークインフラの問題。中段右枠に「高額低速な通信事情」と指摘されている[クリックで拡大] 出所:総務省

 そこにStarlinkが登場して陸のブロードバンドと同等の速度と同等のコスト(実はこの“コスト”が重要。中高度軌道人工衛星による高速データ通信は企業向けの高額データ通信サービスでは以前から運用されている)でデータ通信サービスの提供を始めたことで、それまで導入が進んでいなかった船舶でもブロードバンドネットワークが前提となっている各種ITサービスが利用できるようになった。

 日本でStarlinkの船舶利用サービスを進めている主要な企業の一つがKDDIだ。2021年9月に米国スペースX(Space X)と業務提携を行い、2023年7月3日からは国内法人向けに海上利用サービス「Starlink Business マリタイムプラン」の提供を開始した。

Starlink Business マリタイムプランとインマルサットFX、イリジウム Certusのネットワーク仕様の比較 Starlink Business マリタイムプランとインマルサットFX、イリジウム Certusのネットワーク仕様の比較[クリックで拡大] 出所:KDDI

 本記事では、この海上移動運用に耐え得るハードウェア、特にフラット固定タイプのFHP(Flat High Performance)アンテナの耐候性と堅牢性に加えて、法改正によって利用できる海域の制約が変わった詳細などについて、KDDIでStarlink事業を管轄する同社ビジネス事業本部 ビジネスデザイン本部 エネルギー・運輸営業部 営業5G グループリーダーの山下和氏、ビジネス事業本部 プロダクト本部 ネットワークサービス企画部 サテライト企画G グループリーダーの神田外志夫氏、ビジネス事業本部 ソリューション推進本部 プロダクトソリューション部 サテライトソリューションG グループリーダーの原登志美氏に聞いた。※)

※)取材はTeamsによるオンラインミーティングによって2024年5月23日に実施した。

海上移動でFHPアンテナは必須なのか

 ここで改めて、Starlink Business マリタイムプランで使用できる「ハードウェア」を確認しておきたい。というのは、(主に個人契約ユーザーに多いのでこの記事の読者層的には本筋ではないのだが)一部の船舶ユーザー(これは本船ではなく小型船舶も含む、というか小型船舶に多い)において、RV(Recreational Vehicle)など車両での移動における滞在場所もしくは宿営場所に都度設置して利用する「ROAM」プランのハードウェアを船舶で利用するケースが確認されている。

 KDDI(というかスペースXの日本法人)としては、Starlink Business マリタイムプランにおけるハードウェア要件において「海上の船舶で使用できるアンテナはFHPのみ」としている。その理由としてKDDIの原氏は「Starlinkを船舶で使うために技適(技術基準適合証明)を取得した構成のアンテナがFHP」と説明する。この説明を厳密に適用すると、SNSなどで散見されるROAMプランのHP(High Performance)アンテナを個人所有の小型船舶で航海中(=移動中)に使用するのは「技適違反」ということになる。

Starlink Business マリタイムプランのアンテナとしてはFHP型が必須となる Starlink Business マリタイムプランのアンテナとしてはFHP型が必須となる[クリックで拡大] 出所:KDDI
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