産総研は、明電舎と共同でSiC CMOS駆動回路を内蔵したSiCパワーモジュールによるモーター駆動に世界で初めて成功した。現行のSiCパワーモジュールと比べてスイッチングロスを約10分の1に低減した。
産業技術総合研究所(産総研)は2025年3月12日、明電舎と共同でSiC CMOS駆動回路を内蔵したSiCパワーモジュール(SiC CMOSパワーモジュール)によるモーター駆動に成功したと発表した。産総研によれば「世界初」の成功だ。現行のSiCパワーモジュールと比べてスイッチングロスを約10分の1に低減した。
今回は、SiC CMOSパワーモジュールを使ったモーター駆動時のインバーターの出力電流を観察した。3色の出力電流波形より120度位相がずれた3つの正弦波が検出されたことから、モーターの動作が確認できた。これまでSiC CMOSパワーモジュールに対し、極短時間の動作(1ミリ秒以内の動作)のみ確認されていたが、今回の研究では、インバーター連続動作を達成した。これにより、電気自動車や産業機器用モーターへの展開など、システム応用の検討が可能になった。
現行のパワーデバイス用ドライバーでSiCパワーデバイスの高速スイッチング動作を行うには、ノイズの影響による誤動作が起こるリスクがあった。今回の研究では、SiC CMOSパワーモジュールを使った独自の駆動方法を開発し、ノイズを減らすことで、容易に誤動作する現行のパワーデバイス用ドライバーと組み合わせても、SiCパワーデバイスの高速スイッチング動作が可能なことを示した。これにより、現行のパワーデバイス用ドライバーを利用可能であるとともに、ノイズ低減により、モーターシステムの信頼性改善が期待できる。また、現行のSiCパワーモジュールをSiC CMOSパワーモジュールに交換するだけで、高速スイッチング動作が可能になる。
モーター駆動時のSiC CMOSパワーモジュールにおけるオフ状態からオン状態へのスイッチング動作波形(ターンオン波形)およびオン状態からオフ状態へのスイッチング動作波形(ターンオフ波形)のスイッチング速度は、それぞれ72V/nsおよび85V/nsであった。これは、現行のSiCパワーモジュールのスイッチング速度と比べて約10倍速く、スイッチングロスを概算で約10分の1に抑制可能であることを示す。
今回の成果により、電気機器メーカーによる高速スイッチング動作を使った低損失システムの検討が可能になり、実用化に向けた重要なマイルストーンが達成された。今後、今回の技術を用いることで電気自動車などの消費電力低減が進むことが期待される。
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