吉田氏 自動運転はブームじゃなくなった。自動運転の開発にどう取り組んでいくかというところで、われわれにたくさん話をいただいている。その中では、ディープラーニングの使い方が自動車メーカーの気にするところだ。ディープラーニングの結果だけでは、「なぜその答えが出たのか」が分からないからだ。
そこで、システムの安全性と信頼性をどのように確保するかが課題になる。われわれは機能安全のフレームワークや多重動作でカバーし、車両に収まる形で自動車メーカーの信頼を得ていきたい。
MONOist NVIDIAやNXPセミコンダクターズなど競合の車載半導体メーカーが、自動運転システム開発用のコンピュータを投入している。ルネサス エレクトロニクスの取り組みは。
吉田氏 CESのデモ車両にも使用した、HAD(高度自動運転:Highly Automated Driving)ソリューションキットが自動運転システム開発用コンピュータの前段階にあたると考えている。
実際に車両に搭載できるようなマザーボードについては、HADソリューションとほぼ同じアーキテクチャでドイツのTTTech(TTテック)と開発中だ。TTテックで温度、熱などに対応させて車載用コンピュータとして使えるようにする。
MONOist ECUメーカーとして参入するのか。
吉田氏 われわれが提供するのは開発環境だ。実際にクルマに収めるところは、ティア1サプライヤと自動車メーカーが一緒にやるところ。ECUの最初のトリガーとなる開発をTTテックと進めている。
MONOist NVIDIAに対する優位性は。
吉田氏 開発から車載用につなげていくための強みがある。2020年をめどとする自動運転車開発に向けては2017年が勝負になる。100%の開発環境というのはまだできていない。それをどう仕上げるのか。比較的早いスパンで動いていくことになる。ディープラーニングはオープンに作っていかないと品質が上がらない。そのフレームワークにわれわれのプラットフォームを乗せていく。
ディープラーニングのコミュニティー、つまり、つくったものはここで使えるという場所、インタフェースをつくっていかなければならない。
MONOist GPUと比較して性能面での強みは。
吉田氏 HADソリューションキットにも搭載しているR-Car H3は、独自の並列プログラマブルコア「IMP-X5」を搭載している。R-Car H3は、IMP-X5は画一的でない並列処理を、CPUは複雑で高度な処理判断、GPUが並列性の高い画一処理という形で使い分けることで、性能と電力の最適化を実現している。
画一的でない並列処理の例がディープラーニングによる画像認識で、IMP-X5が向いている。画像の中から歩行者を検出する時、画像は複数に分割されている。分割したマスが歩行者でなければ処理は中断するが、歩行者であれば認識し続けるので、処理は画一的ではない。処理を中断した部分を、別の処理で効率よく埋めることにより、効率化を図れる。IMP-X5を使用したディープラーニングの実験では、認識率は標識、歩行者共に98%以上で、効率はGPUを用いた並列処理の10倍となる。
MONOist ルネサスは車載LinuxであるAutomotive Grade Linux(AGL)などオープンな開発にシフトしているように見える。体質として変わってきたのか。
吉田氏 スタンスが相当変わった。一例をあげると、AGLのパートナーや、インテル(Intel)、クアルコム(Qualcomm)などのオープンプラットフォームの開発者と同じテーブルで議論するようになった。これまでの日本的な、クローズな場所で自分たちの技術に押し込めようというのはなくなった。
オープンソース活動の中で、「アップストリームファースト」という取り組みを2014年から始めた。“野生のLinux”にR-Carのソースコードを入れる活動だ。AGLも、車載情報機器向けプラットフォームの標準化組織であるGENIVIも、同じ活動をしている。産業系でLinuxを使う上でも、コミュニティーを大事にしようという方向に進んでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.