理化学研究所は、酸化ストレス疾患のマーカーを、抗体を使わず市販の安価な試薬だけで簡便に検出する方法を開発した。大量のサンプルを一度に短時間で測定でき、従来の手法に比べて1万分の1以下のコストで実施できる。
理化学研究所は2016年10月26日、酸化ストレス疾患のマーカーを、抗体を使わず市販の安価な試薬だけで簡便に検出する方法を開発したと発表した。同研究所田中生体機能合成化学研究室の田中克典准主任研究員らの国際共同研究グループによるもので、成果は同日、英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。
酸化ストレスが原因で起こる脳梗塞、アルツハイマー、がんなどの疾患では、生体内でアクロレインと呼ばれる有機化合物が過剰に発生している。アクロレインは強い毒性を持った物質で、生体内のさまざまなタンパク質のアミノ基と反応して、ホルミルデヒドロピペリジン(FDP)を生成する。最近の研究によって、脳梗塞のモデル動物や患者では、FDPが多く生成されていることが明らかになっている。
同研究グループは、FDPを直接検出するのではなく、FDPが還元する物質を測定することで、尿や血液からFDPの量を簡便に検出しようと考えた。そこでFDPとニトロベンゼン誘導体(4-ニトロフタロニトリル)を、塩化カルシウム存在下、100℃で5時間加熱したところ、4-ニトロフタロニトリルがアニリン誘導体(4-アミノフタロニトリル)に還元されることを発見。この還元反応は、体内で生成されたFDPでも起こった。
さらに、4-アミノフタロニトリルが著しい蛍光性を示すことも分かった。そこで、ラットやマウスの尿や血清サンプルに、塩化カルシウムと4-ニトロフタロニトリルを加えて加熱した後、還元されて生じた4-アミノフタロニトリルが発する蛍光により、サンプル中のFDPの量を測定することに成功した。この手法の検出結果と、従来の抗体を用いるELISA法で測定した結果に大きな違いは見られなかった。
同手法は非常に簡便で高感度な上、使用する塩化カルシウムと4-ニトロフタロニトリルは安価な市販試薬であるため、従来の手法に比べて1万分の1以下のコストで実施できる。しかも、大量のサンプルを一度に短時間で測定できる。同手法は既にクリニックでの治験が開始されており、今後、健康診断などで酸化ストレス疾患の兆候を直ちに調べる方法の開発につながることが期待できる。
これまで、尿や血液中のFDPの量を抗体で検出する方法が開発されてきたが、抗体を使うため、コストが高い、利便性が悪い、結果が出るまでに時間がかかる、などの問題があった。
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