さて、いよいよ最終レースです。先にスタートする京都大学は第11回大会で初優勝、第12回では準優勝の輝かしい成績を収めている強豪校です。第13回大会からはそれまでのノンエアロから180度方向転換して、フルエアロデバイスを装備。今回のマシン、KZ-RR12は伝統のアルミパイプスペースフレーム(溶接が実に美しく、写真で紹介できないのが残念です)に、スーパーチャージャーで57psにチューンアップした「YAMAHA ER450F」の単気筒エンジンを搭載しました。カウルやエアロデバイスはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)、車重は180kgに収まっています。ホイールベースは1700mmと長めにセット、美しく仕上がったカウルで伸びやかなサイドビューです。
対するU.A.S.Grazのマシンは公式ガイドブックにも詳細の記載がなく、謎めいたものですが、幾つかの情報によるとエンジンはMercedes-Benz(メルセデスベンツ)のチューナーとして名高いAMGがFormula SAE向けにワンオフで制作した排気量500ccの2気筒直噴ターボエンジンです。ミッションも今回のコースに合わせたクロスレシオのセミATだということです。
排気系は最近モータースポーツやBMWモーターサイクルの純正装着品として名を広めているアクラポビッチ。ホイールはCFRPのワンオフ、タイヤはコンチネンタルだということが写真から分かります。
カウルはもちろんCFRP製のフルエアロ、リアウィングの両側にはたくさんの顔写真があり、右側はオーストリア国旗を、左側には日の丸を模したカラーリングが施され、洗練されたカウルデザインとともに目を引きます。
京都大学のKZ-RR12は単気筒ながら甲高い排気音を響かせながら1分2秒台中盤から3秒前半で快調にラップを刻みます。対するU.A.S.Grazは2気筒らしい低音と、時折発するブローオフバルブ音、そしてブレーキング時の摩擦音を伴いながら3周目に1分1秒台を記録、観客からはどよめきが起こりました。
ハイレベルな対戦を楽しんでいると、京都大学は8周目の第1コーナー立ち上がりで異音が発生、どうやら駆動系のトラブルのようです。その周は何とか一周するもラップタイムは1分7秒台に落ち、9周目の途中で完全にスローダウン。そのままリタイアとなりました。
U.A.S.Grazはスローダウンした京都大学のKZ-RR12が追い越しエリアにたどり着くまでの間、コースをふさがれる形になり、9周目は1分16秒台、10周目が1分9秒台とタイムを落としましたが、これはルール上仕方のないことです。
U.A.S.Grazは第2ドライバーにチェンジ、問題なくリスタートして1分1秒台を連発。第1コーナー立ち上がり後の100mほどのストレートで4回シフトアップ、エンジンをパワーバンドにキープしています。これはコースに合わせたクロスレシオミッションでなければできない技です。
日本のチームはモーターサイクルのトランスミッションをそのまま流用しており、コースに合わせるのはファイナルレシオだけでしょうから、差が出て当然といえます。7周目には1分00秒690をマーク。今大会のファステストラップとなりました。
結果は前述のタイムロスをものともせずにトータルタイム1261秒270+2秒(パイロンタッチ1回)の1263秒270で、U.A.S.Grazはエンデュランス1位に輝きました。総合順位は静的審査のコスト審査がマイナス100点で伸びなかったため、6位以内の入賞は果たせませんでした。しかし、「デザイン審査」「プレゼンテーション審査」「オートクロス審査」でも1位に輝き、その実力を他チーム、そして観客に遺憾なく示しました。オーストリアのモノづくり力、素晴らしいです。
最終日、そしてその前日に行われたエンデュランスは好天に恵まれましたが、出走した50台中、完走したのは30台です。見事完走したチーム、トラブルに見舞われ完走を果たせなかったチーム、そして出走できなかったチームを含め拍手を送りたいと思います。
2016年9月15日時点での公式通知による総合順位は
各賞の受賞チームなど、詳しい情報は全日本学生フォーミュラ公式サイトをご覧ください。
次回は悲喜こもごものピットレポート(その1)をお送りします。読者の皆さま、そして取材されたチームの方々、お楽しみに!
2016.10.4追記
主催者の公益社団法人自動車技術会より、U.A.S.Grazの順位について連絡をいただきましたのでその内容を記します。
U.A.S.Grazはコスト審査を受けていないため、すべての審査の得点合計である総合成績では全体の4位でしたが、ICV総合優秀賞の表彰ルールでは「全審査に参加していること」という条件があり、UAS Grazはコスト審査を受けていないので、ICV総合優秀賞からは除外され、4位以下のチームが繰り上がって表彰される結果となりました。
私も少し疑問を感じていましたがこれですっきりしました。この記事をお読みいただき、すぐに連絡をくださった自動車技術会様に感謝をするとともに、疑問を持ったまま記事をリリースしてしまったことについて読者の皆様にお詫びいたします。
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