測定場所を明確にするものの1つが、データムへの精度規制です。データムとは基準として機能する重要なものですから、それにふさわしい精度が求められます。ですから、図9のような形で、備えるべき精度で規制した上で、データムとする表記方法があります。
ここでは、データムA、B、Cに精度を規制した上でデータムとしての指示をしています。それが、公差指示枠にデータム記号を指示した意味です。これにより、明確にデータムにふさわしい精度の規制を行うことができます。
一方、データムの形体の範囲が大きすぎて精度の保証ができないケース、またデータムにするには精度が伴わず、場所を限定して用いることも多いと思います。その際に有効なのが、「データムターゲット」というものです。
図10では、底面をデータムAに設定して平行度を指示しているが、実際の底面は板金部品などでは右図のようなうねりが存在していて、設計者はこの部品を固定する相手部品にボスを立てるなどを行って安定化をしているはずです。
このことがデータムターゲットの考え方なのです。凸凹面でも通常3点で支持すると安定します。そこで、データム平面のために、3点のボスの位置を指示しますが、このボスの位置は設計者が決めることになるので、その位置を理論的に正確な位置として、位置を示す寸法を示します。
図11は具体的にどのようにデータムターゲットを図示するかの方法を例示しています。
この例では、前回設定した3端面を用いた3平面データムの例ですが、そこで復習して欲しいのが、1次データムから始まる自由度によりデータムターゲットの必要点数が変わる事です。
このようにデータムターゲットを明示することで、設計者、組立関係者、測定者など関係するメンバーそれぞれが、どこを測定してデータムとするかが明確になるのです。
同様なことが示された幾何公差はどこを測定するかを明確にすることも時には必要です。それが、図面上太い一点鎖線で示される、領域の限定です。
図12の左の図は断面図や側面図において太い一点鎖線で示された部分にデータムAを指示し、また、ある幾何公差で精度を規制しています。
右の図は正面図において同様にデータムBを設定し、また、ある幾何公差にて精度を規制している例です。このように誰が見ても測定ポイントを明確に指示できるのが幾何公差の特徴です。設計者は必要に応じて指示し、測定者は図面からそこを読み込んで測定します。従来の図面がいかに不明確であったか理解していただけたでしょうか。現場の方には迷惑どころか歓迎すべきではないですか。
次回は、いよいよ幾何公差の導入効果を最大化する位置公差の説明をします。
木下悟志(きのした・さとし)
プラーナー 研修推進室 室長 シニアコンサルタント。セイコーエプソンにて34年間勤務。プラスチック応用の開発経験が長く、非球面レンズや超小型ギヤードモーターの開発から量産、マーケッティングまで経験した。また基幹商品であるウオッチ、インクジェットプリンタ、プロジェクターの要素開発にも長く関わった。近年は研究開発部門のマネジメントにおいて開発の意思決定や外部との共同研究・共同開発の方向付けをした。材料開発、機構設計、プロセス開発、計測技術開発と幅広い知見を持つ。2015年より、設計者の能力開発を支援するプラーナーのシニアコンサルタントとして、幾何公差と計測技術を融合したセミナーを創出し、担当している。大手企業をメインに多数の企業で連日セミナーを担当し、実践コンサルも行っている。
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