「第3回 自動車機能安全カンファレンス」の基調講演に富士通テン会長の重松崇氏が登壇。重松氏は、トヨタ自動車でカーエレクトロニクスやIT担当の常務役員を務めた後、富士通テンの社長に就任したことで知られる。同氏はその経験を基に「自動運転技術の開発を加速する上で、日本は自動車とITの連携が足りない」と課題を指摘した。
システムがドライバーに合わせるヒューマンセントリック(人間中心)な自動運転を実現するには――。自動運転とドライバーによる手動運転を確実に切り替える上では、ドライバーを中心に考えた安全設計とシステムの信頼性の確保が不可欠だ。2015年12月15〜16日に東京都内で開催された「第3回 自動車機能安全カンファレンス」で富士通テン会長の重松崇氏が基調講演に登壇。「自動車メーカーとITC関連会社での車載電子部品開発」(重松氏)という経験を基に、安全でヒューマンセントリックな自動運転の実現に向けた展望を語った。
本稿は、重松氏の講演内容を“ほぼ全再録”という形式でお送りする。
自動運転システムの定義は米国自動車技術会(SAE)と米国道路安全交通局(NHTSA)が策定したものが広く利用されている。SAEの定義は自動化レベルを0〜5に分類し、NHTSAの定義はレベル0〜4に分けている。どちらもレベル0は運転支援システムを搭載しない状態を指し、最高レベルはドライバーが不要な完全自動運転を意味している。ここで重要なことは運転の監視や緊急時のバックアップの主体は誰か?ということ。
SAEの定義を基にすると、システムがメインで運転し要請に応じてドライバーに切り替えられるのがレベル3、ドライバーと交代できなくてもシステムが運転を続けられるのがレベル4に当たる。重松氏は高速道路で運転中の主体が切替ることを前提にレベル3〜4の自動運転の働きを整理しながら紹介した。
人間は高速道路を運転しながら出口の大体10km手前くらいから予定の時間よりも遅れていないか、出口付近は渋滞していないだろうか、と考え始める。そして、出口2kmの標示板で前後の車両の様子に注意し走行車線へ車線変更を計画、実施する。「高速道路限定の自動運転が同じ手順だと仮定すると、この時点で運転の権限移譲を予告し、1km〜500m手前で運転をドライバーに切り替え終わる」(同氏)ことになる。「これらの権限委譲のプロセスでは、人間とシステムの情報共有や連携制御が安全設計のキーとなる」(同氏)という。
こうした場面での自動運転中、ドライバーは居眠りしているかもしれないし、起きていても視線や思考は運転可能な状態に戻っていない可能性がある。そのため、レベル3、4の自動運転ではドライバーが運転できないとシステムが判断した時には、安全な場所へ完全な自動運転(レベル5)で自動退避する必要がある。これら、システム主権の自動運転中に起きた重大な故障(システムの故障や人間の故障)への対応が安全設計の前提条件になるという。
自動運転システムの制御図を考えると、レベル3ではシステムが故障した場合には走行予測から手動運転への切り替えを呼び掛ける警告が必要で、ドライバーが運転可能な状態に戻るまで急激な自動走行の変化を生じない冗長設計が要求される。レベル4では、更に、ドライバーが権限委譲の要求に応じない場合でも、一定の自動走行を持続することになる。いずれの場合も高精度地図や周辺監視を基に、どう安全な退避走行を実現するかがポイントになるという。同氏は「こうした高度な機能安全の対策がなければ、レベル3〜4の自動運転は成り立たないと思っている」と話す。
同氏は、当面の自動運転における安全設計には柔軟性の高い人間のバックアップが不可欠との前提で、HMIとドライバーの監視、ドライバーの目の代わりを果たすセンシング、人工知能(AI)という3つの項目を挙げた。
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