SDVの潮流に自動車業界は対応できるのか、AWSは「3つの道具」で支援車載ソフトウェア(1/4 ページ)

AWSジャパンが自動車業界で注目を集めるSDVの潮流や、SDVの浸透によって変わりつつあるツール環境や仮想ECU、コネクテッド基盤の動向について説明した。

» 2025年07月15日 06時30分 公開
[朴尚洙MONOist]

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は2025年7月8日、東京都内で会見を開き、自動車業界で注目を集めるSDV(ソフトウェアデファインドビークル)の潮流や、SDVの浸透によって変わりつつあるツール環境や仮想ECU(電子制御ユニット)、コネクテッド基盤などの動向について説明した。

 同社は同年5月、CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング&サービス、電動化)をはじめとする自動車業界のトレンドや、同社のクラウドサービスが自動車業界に採用されている理由などについて“記者勉強会”の形式で説明した。今回はその記者勉強会の第2回でありテーマに選んだのがSDVである。

AWSジャパンの岡本京氏 AWSジャパンの岡本京氏

 AWSジャパン エンタープライズ技術本部 自動車・製造グループ 本部長の岡本京氏は「CASEに加えて、近年はAI(人工知能)や5Gなどのテクノロジーを活用してドライバーの体験価値を高めていくことが求められるようになっている。自動車メーカー側はこの体験価値をマネタイズする仕組みを実装してかなければならない。また、自動車のユーザー側からのパーソナライゼーションに対する要求も高まっており、自動車の乗り換えを検討する基準にもなりつつある。SDVはこれらのトレンドに大きく関わっている」と語る。

 SDVは、日本語でソフトウェア定義型自動車と説明されることもある通り、機能がソフトウェアで実現されており、ハードウェア抽象化層を挟むことでハードウェアから切り離されている自動車のことである。従来の自動車の機能は、ハードウェアとソフトウェアを密結合する形で実現しているが、SDVの機能はハードウェアとソフトウェアをハードウェア抽象化層がつなぐ疎結合になっている。

SDVのアーキテクチャ SDVのアーキテクチャ[クリックで拡大] 出所:AWSジャパン

 SDVで重要なのが、SOA(サービス志向アーキテクチャ)というソフトウェア開発モデルを採用していることだ。「1990年代からIT業界で導入が始まったSOAを、自動車に展開して行こうというのがSDVに他ならない」(岡本氏)という。AWSに代表されるクラウドサービスの進化はSOAに基づいており、自動車メーカーがSDVへの移行を進める上でAWSをパートナーに選ぶことはある意味で必然ともいえる。

 SOAをベースとするSDVによって、自動車の機能は自己完結型のソフトウェアユニットによる「サービス」として提供される。従来は、組み込みシステムとしてハードウェアとソフトウェア一体で開発されてきたECUは、クラウド上でもハードウェア上でも動作可能な仮想ECUとしてパッケージ化されることになる。さらに、これらのサービスをアップデートして新しい価値を追加できれば、スマートフォンのサブスクリプションサービスのようにマネタイズすることも可能になる。そういった仕組みを実現するには、利用可能なサービスを公開するメカニズムや利用に関する制御などの技術も必要になる。

 岡本氏は「自動車メーカーやサプライヤーは、移り変わるゆユーザーニーズへの継続的な対応、多様な車種と所有モデルをカバーする柔軟な機能とサービスの提供、新しいビジネスモデルの確立と利益の確保、複雑な車両アーキテクチャや開発体制により高騰するコストの抑制といった課題を解決する手段としてSDVに強く期待している」と説明する。

自動車メーカーやサプライヤーが抱える課題を解決する手段としてSDVが期待されている 自動車メーカーやサプライヤーが抱える課題を解決する手段としてSDVが期待されている[クリックで拡大] 出所:AWSジャパン

 ただしSDVの推進では、「ソフトウェア開発」「ソフトウェア管理」「データ活用」という3つの課題がある。まずソフトウェア開発では、ソフトウェアの規模が増大し続けている状況下で、SOAに対応可能な開発手法に移行しなければならないが、従来の分散型ECUから統合型HPC(高性能コンピュータ)への移行という車両アーキテクチャの移行期も迎えていることが大きな負荷になっている。「走りながらやるのはかなり難しい」(岡本氏)。

SDV推進に当たっての3つの課題 SDV推進に当たっての3つの課題[クリックで拡大] 出所:AWSジャパン

 ソフトウェア管理では、ユーザーが要求するために用意した多様な車種とモデルにまたがるバリアント管理が複雑なことに加え、これらに対応するソフトウェアのアップデートが煩雑な状態になっている。そしてデータ活用では、自動車業界はもともとデータ戦略が欠如しているという事実がある。岡本氏は「データ駆動の考え方を成熟させないといけない」と強調する。

 AWSはこれら3つの課題の解決に向けて自動車業界を支援するべく「3つの道具」を用意している。ソフトウェア開発では「ツール環境」、ソフトウェア管理では「仮想ECU」、データ活用では「コネクテッド基盤」によって対応する。これら3つの道具と併せてデジタル人材の育成も行っており、パートナーとの連携によってソリューションの完全性を高めて統合されたエクスペリエンスを提供していく方針である。

SDV推進に向けてAWSが提供する「3つの道具」 SDV推進に向けてAWSが提供する「3つの道具」[クリックで拡大] 出所:AWSジャパン
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