仮想ECUは、クラウド上のCPUに車載ソフトウェアを実装して仮想的なECUとして動作させることができる仕組みのことを指す。AWSのクラウドにおける仮想ECUを支えているのが、AWSが自社開発したデータセンター向けプロセッサの「Graviton」である。
Armのサーバ向けアプリケーションプロセッサIPを採用するGravitonは、2018年の登場から現在は2023年に投入した第4世代の「Graviton 4」まで進化している。AWSはArmの協力を得て、ECUのプロセッサとして用いられている「Cortex-A/R/M」の各シリーズの命令コードをGraviton上でそのまま動かせるArm on Armの技術を開発した。Armからも「Arm Virtual Hardware」としてSDK(ソフトウェア開発キット)が提供されている。
仮想ECUにはさまざまなメリットがある。ECUの車載ソフトウェアの開発を、実物のECUが完成する前からだけでなく、そのECUに搭載予定の車載マイコン/MPUが完成する前から行える。検証についても、より速いインスタンスや複数テストケースの並列実行により期間を短縮することが可能だ。仮想ECUと車載ソフトウェア、検証のためのシミュレーション環境などがクラウド上に統合されていれば、開発プロセスをクラウド内で完結できるので、いわゆるアジャイル開発を実現できるようになる。
仮想ECUの事例としては、2023年4月発表のマレリ、同年12月発表のパナソニック オートモーティブシステムズ、2024年1月発表のクアルコム、そして「AWS Summit Japan 2025」(2025年6月25〜26日、幕張メッセ)で展示されたソニー・ホンダモビリティの「AFEELA 1」のADAS(先進運転支援システム)開発などがある。
AFEELA 1のADAS開発は、AWSのGravitonを用いたクラウド上で開発/検証したソフトウェアが実物のプロセッサで動作するクラウドネイティブバイナリ互換を特徴とする、クアルコムの「Qualcomm DL2q EC2 Instance」を活用した。まずは、各車両からのデータ収集、匿名化、認識ラベル付けをAWSのデータレイクに集約して管理し、ADASの推論モデルの学習には「Amazon SageMaker Hyperpod」を用いた。この学習済みの推論モデルを、Qualcomm DL2q EC2 Instanceに基づく仮想ECUに適用し、推論結果を検証するという開発プロセスになっている。
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