日本の自動運転車開発の課題は「自動車業界とIT業界の連携不足」富士通テン会長 重松崇氏 自動運転技術講演全再録(2/5 ページ)

» 2016年01月19日 10時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

ドライバーの“副操縦士”となるシステム

 人間とシステムが安全に連携して制御するポイントの1つは、操作者がシステムの状態をモニターし制御を予測できることと、システムが操作者をモニターすることだとされている。これを今回の自動運転に当てはめると、「システムはドライバーの状態を常にモニタリングしながら運転の権限委譲を提案し、一方、ドライバーはシステムの状況から制御不具合を予測してオーバーライドをかける」と重松氏は説明した。

人間とシステムが安全に連携して制御するには、状態を相互にモニタリングする必要がある 人間とシステムが安全に連携して制御するには、状態を相互にモニタリングする必要がある (クリックして拡大) 出典:富士通テン

 ドライバーの“故障”は人間の2つの特性によって起こる。これは、人間の能力が最も高く発揮される最適な作業量の領域があり、それより難しすぎる作業では過剰な注意が必要で疲労するし、簡単すぎるとルーティン化して不注意になる傾向がある。

 先進運転支援システム(ADAS)から自動運転に進化する中で、システムが複雑になりすぎると、ドライバーはシステムからの情報を正しく理解できなくなる可能性がある。反対に、完全な自動追従走行などで運転がルーティンワーク化すると、人間は不注意でシステムの制御状況を把握しにくくなってしまう。

作業量が多すぎても少なすぎても人間の能力は適切に発揮できない 作業量が多すぎても少なすぎても人間の能力は適切に発揮できない (クリックして拡大) 出典:富士通テン

 これまでの予防安全の枠組みでは、人間はミスを起こしやすい最も信頼できない“部品”だと位置付けられている。重松氏は「人間の行動を制限して安全性を高めようというのが予防安全の考え方。ヒューマンエラーが根深い問題としてある一方、人間は予測や判断等で高い柔軟性を持っている。人間の能力を理解し積極的に活用する方策を加えれば、システム内に人間を含ませる方が安全性を高められるとも考えられる」と説明する。

 自動運転システムとのコミュニケーションを容易にする1つとして、複雑な情報を一見して理解できる表示(内容・表示場所・形状など)の工夫が重要である。一方、同氏はドライバーがシステムを過信しないようにする方法も紹介。例えば周辺監視システムが性能限界付近になった場合、その検出信頼度が低い事を示すマークを表示するとドライバーのシステム依存度が浅くなり、より短い時間で危険回避行動に移行できたという。HMIの仕掛けで行動を促すやり方は、自動運転に限らずヒューマンマシンインタフェース全般に生かせそうだ。

自動運転がドライバーにとって複雑すぎたりルーティンワーク化したりしないための対策 自動運転がドライバーにとって複雑すぎたりルーティンワーク化したりしないための対策 (クリックして拡大) 出典:富士通テン

 要求に応じドライバーを確実に運転復帰させるためには、ドライバーの意識状態の監視も必要だ。ドライバーが運転以外に注意は向けているが覚醒している「ブレインオフ」か、居眠りなどで意識がない「ブレインダウン」か、を見極める機能が不可欠になる。ブレインオフ(例えば、携帯やパソコン使用中)なら数秒で運転を再開できるが、居眠りでは数分では運転に戻れない。これに対応するため、視線から人間の内部覚醒状態を推定する技術開発も進んでいる。「物理的に前を見ているかどうかだけでなく、眠気やストレスの状態、運転可能性まで把握できるところまで来ている」(同氏)。

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