日本の医療情報システムの中で、標準化と相互運用性の取り組みが最も進んでいるのが、放射線情報システム(RIS)や医用画像保存通信システム(PACS)だ。第5回は、RIS/PACSを起点とする新技術導入の動向について概説する。
第2回で触れたように、RIS(Radiology Information Systems)/PACS(Picture Archiving and Communication Systems)は、病院の放射線部門で利用される臨床情報システム(CIS:Clinical Information Systems)である。RISやPACSが主に取り扱うのは、医用画像およびそれに関連するデータだ。
医用画像のうち、画像撮影機器から生成される画像を「一次医用画像」、一次医用画像をコンピュータ上で処理/再構成して生成される画像を「二次医用画像」と呼ぶことがある。
一次医用画像の生成を担うのがさまざまな医療機器であり、臨床現場におけるビッグデータのソースとなっている。これら機器間の相互接続性(Interconnectivity)を確保するための標準規格が、「HL 7(Health Level 7)」(主に文字情報を取り扱う)や、医用画像を取り扱うための「DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)」(医用画像を取り扱う)である。この領域では、現在、ウェアラブル端末、センサー/M2M(Machine-to-Machine)ネットワークに代表される、モノのインターネット(IoT)の技術が普及しつつある。
これに対して、二次医用画像は、収集した一次医用画像データをどう利活用するかが大きなテーマとなっている。その適用領域も、院内の放射線部門の枠を超えて、診断支援から、治療支援、医学教育支援、遠隔医療支援、地域医療連携支援へと拡大している。技術的には、第2回で触れたように、ビッグデータのインフラストラクチャや高度分析技術の拡大が期待される領域だ。
それでは、RISおよびPACSの概要を紹介しよう。
放射線情報システム(RIS)は、放射線科の医師、看護師、診療放射線技師などによるチーム医療業務の効率化、情報共有/部門内連携を支援するシステムだ。CISの部門システムの1つとして構築されることが多いが、PACSの構築/更新時に合わせて構築されるケースもある。主要な機能としては、患者基本情報、オーダー情報など、業務に必要な情報を入力、保存、検索、出力する機能などがある。
RISは、データの入出力機能を介して、PACSの他、第1回で取り上げた病院情報システム(HIS)や、第3回で取り上げた電子カルテ、さらには第4回で取り上げた地域医療連携システムと連携する。
他方、医用画像保存通信システム(PACS)は、放射線部門の医用画像情報を取り扱うシステムである。現在は、画像配信機能と通信ネットワークを介して、部門内から、院内、院外へと利用範囲が拡大している。PACSが取り扱う医用画像には、放射線画像、CR(Computed Radiography)、核医学検査画像、超音波検査画像、病理診断画像、内視鏡検査画像、CT(Computed Tomography)、MRI(Magnetic Resonance Imaging)、手術ナビゲーション画像、CG(Computer Graphics)、VR(Virtual Reality)などがある。PACSの基本的な機能としては、検査画像発生機能、画像保管/管理機能、画像読影/参照機能、レポーティング機能、ネットワーク機能などがある。
医用画像の電子保存に際しては、第3回で取り上げた電子カルテと同様に、1999年4月の厚生省通達(「診療録等の電子媒体による保存について」)に準拠し、真正性(情報が完全/正確で信頼でき、作成/変更/削除の所在が明確にされていること)、見読性(情報を必要に応じて肉眼で確認できる状態に容易にできること)、保存性(情報が復元可能であること)の3要件を満たすことが求められる。
経済インセンティブとしてPACSの普及/拡大に大きく寄与したのが、2008年の診療報酬改定で新設された「電子画像管理加算」(いわゆるフィルムレス加算)だ。従来、放射線画像診断では、媒体として長らくフィルムが利用されてきたが、画像を電子化して管理/保存するか、画像を電子媒体に保存して管理すれば、診療報酬が加点される仕組みが登場し、PACSの導入が中小規模病院まで拡大した。
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