RIS/PACSに学ぶ“横串を通す”医療ITとは医療機器開発者のための医療IT入門(5)(2/3 ページ)

» 2015年12月10日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]

医用画像のデータソースとしての医療機器とPACS

 病院では、さまざまな画像診断機器が利用され、データソースの役割を果たしているが、デジタル化された機器もあれば、アナログ画像を出力する機器もある。また、デジタル機器の中には、DICOM出力機能を標準装備しているものもあれば、未対応のものもある。

 アナログ機器やDICOM出力に対応していないデジタル機器の場合、ビデオキャプチャー装置を利用してデジタル変換しなければならない。さらにデジタル化した画像をDICOM規格準拠にするためには、患者ID、氏名、検査情報などのメタデータを付加する必要がある。また、診断機器によってビデオ信号のフォーマットや周波数帯域が異なる場合、調整作業も必要となる。

 医用画像システムを導入する際には、あらかじめ画像データの発生量を計算し、サーバやバックアップの画像保存領域の容量を見積もっておく必要がある。医用画像の場合、カラーとモノクロで容量が大きく異なるので注意が必要だ。

 保存容量は画像の圧縮率にも左右される。画像圧縮方法には可逆圧縮と非可逆圧縮があり、前者は完全に元の画質に復元できる圧縮、後者は元の画質に復元できない圧縮である。医用画像の場合、読影など臨床現場の業務で、高レベルの解像度を要求されることが多いので、復元後の画像劣化の度合いも事前にチェックする必要がある。

PACSの中核機能を担う画像サーバ

 PACSの中で、画像保管・管理機能を担うのが、画像サーバであり、画像診断機器や画像処理機器から画像を取得して表示端末に転送するソフトウェア、取得した画像データを大容量メディアに保存・蓄積するハードウェア、各種データを管理するデータベースから構成される。

 サーバソフトウェアは、DICOM画像受信機能、情報管理機能、画像送信機能を備えている。情報管理機能を担うのは、リレーショナルデータベース(RDB)であり、患者基本情報(患者ID、患者氏名、生年月日など)、検査基本情報(検査日、検査時間、検査種別、検査を一意に特定するDICOM規格上の固有IDなど)、画像情報(画像ファイル名、保存サーバ名、保存ディレクトリなど)を統合的に管理している他、画像端末などからの検索要求に対して、検索を実行し、結果を端末に返す役割を担っている。

モバイル化、マルチチャネル化が進むPACSの表示端末装置

 PACSの画像表示端末は、画像を取得し表示するソフトウェアと表示端末装置から構成される。表示端末装置を大別すると、画像表示端末、画像処理端末とWeb表示端末の3つがある。

 画像表示端末は、ウィンドニング処理、計測処理、画像拡大機能など、読影業務に必要な機能を備えた高解像度のビューワーである。画像処理端末は、3D処理、最大値投影処理(MIP:Maximum Intensity Projection)、多断面再構成(MPR:Multi Planer Reconstruction)などの機能を備え、大容量の高解像度画像から目標臓器を抽出する。昨今は、画像表示装置にも、MIPやMPRの機能を備えるものが増えている。

 Web画像表示端末は、Webブラウザを利用して画像を配信する機能であり、電子カルテ端末との連携などで急激に普及した。ただしブラウザは、個々の端末の環境に左右されるので、ASP型の画像ビューワーアプリケーションを導入するケースも増えている。また、スマートフォンやタブレット端末を、いつでもどこでも使える画像表示端末として利用するケースが増えており、iOS/Android OS対応の画像ビューワーアプリケーションも開発されている。

クラウドを利用した医用画像の外部保存サービスの拡大

 医用画像の外部保存については、厚生労働省が2002年3月に出した「診療録等の保存を行う場所について」(関連情報)で、一定の要件を満たせば、画像を作成した医療機関以外の場所における保存が認められるようになった。さらにその後の改正により、民間のデータセンター事業者に外部保存を委託できることが可能となった。近年、PACSベンダーが、データセンター事業者と提携して、クラウドを利用した医用画像の外部保存サービスを提供するケースも増えている。

 ただし、情報セキュリティ対策の観点から、外部委託する医療機関は、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(最新版は第4.2版、関連情報)、受託する民間事業者は、経済産業省の「医療情報を受託管理する情報処理事業者向けガイドライン(関連情報、PDFファイル)、ASPやSaaSを利用する事業者は、総務省の「ASP・SaaSにおける情報セキュリティ対策ガイドライン」(関連情報)および「ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン」(関連情報)を順守することが前提条件となる。

 このようにPACSは、病院のシステムの中で、モバイルデバイスやクラウドコンピューティングが先行導入されている領域であり、セキュアかつ利便性の高い医療情報システムの実現に向けたユースケースの宝庫になっている。

 参考までに、図2は、2015年11月13日に厚生労働省が公表した「クラウド時代の医療ICTの在り方に関する懇談会報告書」(関連情報)より、医療/介護分野におけるモバイル端末を活用したコミュニケーションサービス実現に向けたセキュリティ検証の方向性を示したものである。

図2 図2 モバイル端末を活用したコミュニケーションサービスのセキュリティ検証(クリックで拡大) 出典:厚生労働省「クラウド時代の医療ICTの在り方に関する懇談会報告書」(2015年11月13日)

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