次に、許容差の考え方の基本について説明します。こちらは「ママさん設計者がやさしく教える部品図の描き方超入門」の中でも触れていますので、ぜひ併せてご覧ください。
さて、寸法と同じく大切な情報である許容差を理解するために、「もしも許容差というものを考慮しなかったらどんなことが起きるか」をお話しましょう。
図11は、記載の寸法(ピッチ)で、横一列に穴加工をする加工図です。
赤丸の「基準」というのは、先ほどの「寸法記入のお約束」の中にある「加工するときの基準位置を決めて、そこから追った寸法を記入する」を理解していただくためのマークです。図11では、左下を基準にして、そこから上へ15mm、右へ10mm移動した位置に穴を1つ開け、そこから右へ20mm、さらに右へ20mmと続けて4カ所の穴を開けます。すると終端の寸法は10mmになりますが、実際の加工では終端にたどり着くまでに各ピッチ寸法の許容差が加算されていくので、残った10mmという仕上がり数値は約束できなくなります。
もし、この穴位置がそれほど精密でなくて良い場合(加工現場ではうるさくない寸法などと表現します)は、終端の寸法に()を付けて(参考寸法)として処理します。
許容差の指示がないと、関係する他部品との位置ずれが生じて組み立てが出来なくなり、追加工をして位置を何とか合わせるとか、最悪の場合、部品の作り直しなどといったムダが発生してしまいます。ですから、精密な位置を指示したい時には、図13のように、必要な箇所にきちんと許容差を記入します。
なお、この例のような寸法記入方法を「直列寸法記入法」と呼び、現場では標準的な寸法記入法として扱われています。
寸法許容差の影響を受けやすい代表的なものとして、軸と穴の「はめあい」があります。本連載の第3回、第4回に登場した、図14の形状(軸・穴ともにφ15)を例に取って説明します。
「はめあい」とは、「軸と穴が互いにはまり合う関係のこと」で、そのはまり具合を数値で示したものを「はめあい公差」と呼びます。そして、このはめあい公差には、「すきまばめ」「中間ばめ」「しまりばめ」の3種類があります。例えば、φ15の穴にφ15の軸をはめた時に、許容できるすきまを持たせて回転運動させるのが狙いの場合、「すきまばめ」の公差を適用します。この場合は、当然ながら軸の直径の方が穴径の最大寸法よりも小さい状態です。
はめた時に完全に固定させるのが狙いの場合は、「しまりばめ」の公差適用となって、この場合は軸の直径を穴径の最大寸法よりも大きく仕上げることになります。軸よりも穴の方が小さいわけですから、はめるときには「圧入」という機械頼みの方法を取ることになります。
「中間ばめ」は、「すきまばめ」と「しまりばめ」の中間。つまり、可動と固定の中間「静止状態」のはめあいです。いずれのはめあいにも等級があり、目的と状況に応じて等級を指定します。はめあい公差の一覧表はネット上でも手に入ります(参考リンク:常用するはめあいの寸法公差(ミスミ))。
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