皮膚の健康と病気を調節する、新しい脂質メカニズムを発見医療技術ニュース

東京都医学総合研究所は、脂質を分解する酵素の研究から、皮膚の健康と病気を調節する脂質の新しいメカニズムを発見した。表皮角化細胞の酵素が新しい活性を持つ脂質を作り出し、皮膚の分化と肥厚を進めていることが分かった。

» 2015年10月30日 08時00分 公開
[MONOist]

 東京都医学総合研究所は2015年10月5日、同研究所の村上誠参事研究員、山本圭研究員らの研究グループが、脂質を分解する酵素の研究から、皮膚の健康と病気を調節する新しい脂質メカニズムを発見したと発表した。同成果は、10月5日に米科学誌「Journal of Experimental Medicine」電子版に掲載された。

 外界に接する皮膚表面の表皮角化細胞(ケラチノサイト)は、セラミドなどの脂質の層を作り、体内からの水分の蒸散や病原体などの侵入から体を守っている。しかし、セラミド以外の脂質が皮膚でどのような役割をしているかは分かっていなかった。

 同研究グループでは、リン脂質を分解する酵素に関する研究を進める中で、表皮角化細胞の酵素が新しい活性を持つ脂質を作り出し、皮膚の分化と肥厚を進めることを発見した。 

 研究ではまず、皮膚異常を発症するモデルマウスの皮膚の遺伝子を発現遺伝子解析によって比較。従来は機能が不明だった、細胞外に分泌されるリン脂質分解酵素(PLA2G2F)が、表皮にのみ強く発現していることを発見した。ヒトの皮膚でも同様のことが起こり、乾癬(かんせん)患者の肥厚した表皮で発現が増加していた。そのため、PLA2G2Fを過剰に発現させたマウスを調べたところ、PLA2G2Fが表皮の肥厚をさらに悪化させていることが分かった。

 さらに、PLA2G2Fの作用には、この酵素が産生する脂質代謝物が関わっていると考えられたため、遺伝子操作マウスの皮膚を用いて脂質の全解析を行った。その結果、PLA2G2Fが表皮のリン脂質に作用し、ドコサヘキサエン酸(DHA)を持つエーテル型リン脂質を、ドコサヘキエン酸を失ったリゾ型に変換していることが分かった。このリゾ型リン脂質を欠損マウスに与えると、乾癬の症状が悪化することなどから、同リン脂質が、乾癬やかぶれの新規バイオマーカーであり、同時に新しい生理活性脂質であることが明らかとなった。

 同成果は、乾癬や皮膚がんなどの治りにくい皮膚疾患の新しい診断法や治療薬の開発につながることが期待されるという。

photo A:PLA2G2Fの欠損マウス(−/−)では、野生型マウス(+/+)と比べて乾癬による表皮の肥厚が起こりにくい。B:皮膚において、PLA2G2Fは特殊なエーテル型リン脂質をリゾ型に変換する。C:表皮が肥厚する疾患(乾癬)におけるPLA2G2Fの作用機序。

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