浅漬けも発電も塩加減が決め手「浸透圧発電」5分でわかる最新キーワード解説

塩分濃度の違いで水分が移動する「浸透圧」を利用した発電方法が、「浸透圧発電」です。日本の機能性膜研究が生んだ海水淡水化技術とともに、世界的な水資源の効率化に寄与することが期待されます。

» 2015年09月08日 15時00分 公開
[キーマンズネット]

 今回のテーマは海水と淡水の濃度差を電力に変えるソフトエネルギーの1つ「浸透圧発電」。太陽光発電よりも低コストの発電ができることを実証したこの技術、日本の機能性膜研究が生んだ海水淡水化技術とともに、グローバルな水資源効率活用に新たな道を切り開くカギになりそうです。

「浸透圧発電」とは

 海水と淡水を半透膜で仕切ると、浸透圧で淡水が海水の方に浸透する。「浸透圧発電」とは、その浸透力を利用して発電機のタービンを回し、電力を得る新しい発電の仕組みだ。

図1 浸透圧発電実証プラント設備の一部 図1 浸透圧発電実証プラント設備の一部(資料提供:東京工業大学 谷岡明彦)

 日本では東京工業大学の谷岡明彦教授が研究をリードし、2003年から技術開発に着手、2009年に福岡市に浸透圧発電プラントを建設、実験の結果、太陽光発電よりも優れた発電効率・発電コストを実証した。

 現在は海水淡水化プロジェクトを進める海外諸国から注目を浴びており、国内では100kW級発電所実現を目指して技術開発が進められている。

  • 「浸透圧発電」の原理

 「浸透圧発電」は、いわばキュウリや白菜の浅漬けができる原理を応用したもの。浅漬け名人になるコツは、上手に野菜から水を抜き出せる塩分濃度の浅漬け液を作ることだ。野菜の中の水分と、周りの液体との塩分濃度差により、濃度が低い方から高い方へ水が移動するのが「浸透」。濃度差は気圧差で表せるので浸透する力は「浸透圧」と呼ばれる。浅漬けは浸透圧を利用して水分を抜いているわけだ。

 この原理を理科の実験で試したことのある人も多いだろう。図2のようにロートの広い口に「半透膜」という、水分は通すが塩分は通さない特殊な膜を貼り、塩水を詰めて水を張ったビーカーに垂直に入れると、やがてロート内に淡水が浸透し、ロートの水面が上がっていく。ロート水面が止まったところとビーカーの水面との高さ(水柱高さ)が浸透圧差に相当する。

 この実験を淡水と海水でやってみるとどうなるだろうか。浸透圧差はなんと約30気圧。水柱の高さで言うと約300mになるのだ。つまり、約300mの落差のある水力発電所と同じだけの水力が得られることになる。

図2 浸透圧差の考え方 塩水の中に淡水が侵入することで水面が上昇、塩水面が上昇することで圧力の差が生まれる 図2 浸透圧差の考え方 塩水の中に淡水が侵入することで水面が上昇、塩水面が上昇することで圧力の差が生まれる(資料提供:東京工業大学 谷岡明彦)

実際の発電所はどんなイメージになるのか?

 実際の発電装置の形態はもっとコンパクトだ。図3のように、海から海水をくみ上げて膜モジュールに導き、同時に河川などから淡水を組み上げて同モジュールに導く。海水と淡水は膜モジュールの中で半透膜で隔てられている。すると膜モジュールの淡水側から海水側へと浸透が始まり、海水側の水量が増えていく。それを発電機のタービンに導いて、回転させて電気を作るという仕組みだ。実証設備では膜モジュールは直径20cm、長さ1mのボンベのような形状で、8本が利用されている。

図3 膜モジュールを用いた浸透圧発電のイメージ 図3 膜モジュールを用いた浸透圧発電のイメージ(資料提供:東京工業大学 谷岡明彦)

 使われる膜モジュールは、家庭用の浄水器のフィルターカートリッジを大きくしたようなものだ。フィルターカートリッジには中空糸というチューブのような材料が詰め込まれているが、その内側に淡水を通し、外側を海水で満たしている様子を想像すればよい。チューブ材料が半透膜なので、中を通した水の一部が海水側に浸透して、発電機に向けて外に出て行くという構造だ。

  • 日本が世界をリードする「機能性膜」技術

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