こうした3Dデータの利活用を広げていくための象徴的なプロジェクトとして、田中氏が現在取り組んでいるのが、「3D図鑑プロジェクト」だ。
図や写真といったビジュアルと解説文からなる「図鑑」は、日本独自の発展を遂げた形式であるという。「この図鑑を3Dデータの時代にあらためて捉え直そうというアプローチが、3D図鑑プロジェクトである。現在、ケイズデザインラボ 代表取締役社長 原雄司氏をアドバイザーに迎え、慶応大学のファブ地球社会コンソーシアムを母体として、さまざまな企業などと連携・協力しながら3D図鑑を構築しようとしている」(田中氏)。
この3D図鑑プロジェクトでポイントとなるのが、先ほども登場したAMFやマイクロソフトが中心となり策定を進めている「3MF」、そして3DデータをPDF上で閲覧できる「3D PDF」などの次世代3Dデータフォーマットの相互変換技術だ。
例えば、AMFであれば、動物の3Dデータに対して、目、耳、鼻、口などの部位の説明を付けたり、解説文を入れたり、色を付けたりすることができる。閲覧者も自分の好きな角度で3Dデータを眺めたり、気になる部位を拡大してディテールや解説文を読んだりすることもできる。「従来のSTLでは表現できないようなことが、AMFや3MFという新しいデータ形式の登場により可能となった。ただ、技術だけで議論してもダメなのだと思う。新しくできるようになった機能をうまく生かして、創造的な利活用の事例を増やしていくことが大切だ」と田中氏。現在、インターネット上の百科事典である「Wikipedia」との連携も計画しているという。
3D図鑑プロジェクトの活動はまだ始まったばかりだが、今後、動物、昆虫、植物、自動車、人体、宇宙などいろいろなジャンルの3D図鑑を、協力企業などとともに整備・構築し、教育機関、博物館などへの提供や、ワークショップでの利用などにつなげていきたいという。
「“コレクション”を愛する文化というのも世界的に見てユニークな要素だと思う。3Dデータは国境がないグローバルなものだが、“3Dとの向き合い方”は日本の文化性が色濃く出るはずだ。こういうことを、産学・文理の壁を越えて議論していける場にもしていきたい」(田中氏)。
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