ヒトの細胞で、RNAを用いて細胞の機能を精密に制御する人工回路を構築医療技術ニュース

京都大学は、ゲノムDNAを傷つける恐れのないRNAをヒト細胞に導入することで、細胞の機能をさまざまに制御できる「人工回路」を開発したと発表した。標的がん細胞にのみ、細胞死を誘導できる人工回路などを構築した。

» 2015年08月27日 08時00分 公開
[MONOist]

 京都大学は2015年8月5日、ゲノムDNAを傷つける恐れのないRNAをヒト細胞に導入することで、細胞の機能をさまざまに制御できる「人工回路」を開発したと発表した。これらの人工回路を組み合わせることで、がん化した細胞や未分化細胞などを細胞内の状態に応じて除去しつつ、安全かつ精密にヒト細胞の運命を操作することが期待されるという。同研究は、東京大学新領域創成科学研究科の遠藤慧助教(元京都大学iPS細胞研究所(CiRA)研究員)、京都大学CiRAの齊藤博英教授らの研究グループが、マサチューセッツ工科大学のロン・ワイス教授と共同で行ったもので、8月4日に「Nature Biotechnology」で公開された。

 細胞には、さまざまなタンパク質に対して、適切なタイミングや量を調節するような回路が備わっている。こうした回路を制御するため、薬や低分子化合物が一般的に用いられてきたが、予想外の副作用をもたらす場合があった。そのため、細胞の状態に応じてタンパク質の発現をコントロールできる人工回路の構築が期待されている。しかし、DNAとDNAに結合するタンパク質(転写因子)を用いるため、DNAを導入することでゲノムDNAを傷つける可能性があり、医療応用が難しいという課題があった。

 同研究グループでは、安全性の高い人工RNAをヒト細胞に導入し、RNAとRNA結合タンパク質を利用した人工回路の作製に取り組んだ。その結果、標的となる細胞(がん細胞など)の状態を識別し、その状態に応じて細胞運命を制御できる回路、情報を増幅できる3つの抑制段階を持つ多段階のシグナル伝達回路、細胞の状態に応じて2種類のタンパク質の発現を切り替えるスイッチ回路の開発に成功した。

 細胞運命を制御できる回路は、細胞内の複数のマイクロRNA(miRNA)を検知し、標的がん細胞にのみ細胞死を誘導できるRNAからなる人工回路で、miRNAに応答する2種類の人工mRNAを細胞に導入するだけの単純な仕組みで構築できる。

 また、スイッチ回路では、回路が長期間働く場合を想定し、自己増殖が可能なRNAレプリコンを利用した回路の構築にも成功。これらの結果から、一時的に回路を細胞に作用させたい場合は人工mRNA、長期間作用させたい場合はレプリコンといったように、目的に応じて利用する人工RNAを選択可能であることが分かった。

 今回構築された人工RNAを用いた回路は、決められた期間のみ機能させることができ、ゲノムDNAを傷つけるリスクが低いという利点がある。さらに、人工mRNAやレプリコンの発現量、機能させる時間を変化させることで、より多層的な回路デザインが可能になるという。特に、人工mRNAによって特定の細胞を識別して細胞死を起こす回路は、設計が簡単で、RNAが一時的に細胞内にとどまった後に分解される。そのため、ゲノムDNAを傷つけることがなく、安全性の面からも将来の医療応用が期待されるとしている。

photo RNAを用いた人工回路のヒト細胞内での構築
photo RNAを用いた人工回路の模式図
photo HeLa細胞の細胞状態を検知して細胞死に導く仕組み
photo 多段階接続回路の仕組み
photo 2段階スイッチの仕組み

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