この状況を問題視し、設計の標準化をもっと進めることを強く求めたのは、設計部門ではなく、部品発注部門でした。それは、そこが一極集中的に図面が集まる部門であり、部品のコストや品質と向き合う部門であるからです。一方設計部門は、優先すべき出図納期の中で、これまで以上の標準化を行っていくことは時間的に厳しいと考えました。
その当時と比べると、現在は設計者たちが置かれる環境はますます厳しくなっています。特に私が経験してきている個別受注の装置産業においては、「開発設計→量産設計」というステップはなくて、「開発設計=量産設計」という一発勝負です。
そのような厳しい状況では、まず一からの新規設計よりは流用設計を行うことが多くなります。新規で設計する部分については、新技術を装置化するための高いレベルの設計が要求されます。しかも、短納期に対応するために、設計するための時間は非常に限られます。「この状況の中で本当によくやっているなぁ……」と思ってしまうような状況です。
また設計の流用率が高くなり、データ派生が進むことで、先ほども説明したように、データ管理が難しくなってきます。
もちろんPDM(Product Data Management)のような3D CADデータをデータベースとして管理するシステムを導入すればその管理はしやすくなりますが……。多くの設計現場では、PDMというツールを上手く使うには至っていないのが現実でしょう。それは「設計や製造にある、現状の問題とは何か」「そのためにはどんな課題があって、どう対策していきたいか」が明確ではないからだと私は考えています。
例えば、2D CAD運用での流用設計において、流用元や流用後のデータの紐(ひも)付け管理が上手くいっていなかったと考えるなら、それを3Dデータを使って管理するツールとしてPDMを採用すべきです。3D CADの特性を理解した上で、データの構成、名前(ファイル名)の付け方、保存場所や保存方法を十分検討し、その流用設計を行っていくのです。
そうでなければ、3D CADの流用設計も、2D CADでの設計と同様に、データのコピーを作って、類似形状を作り続けているうちに、履歴を追うことが難しくなる、という運用となってしまいます(関連記事:こうやればよかった! メカ設計者のためのPDM)。
流用率が高くなり、新規設計要素の難易度が上がって、しかも限られたリソースの中でそれに対応するためには、設計のやり方そのものを変えるべきだと私は考えます。
ある時、ソフトウェア開発者と話をしていたときに、興味深い発見がありました。
「ソフトウェアは作文みたいなもので、自分流の書き方をする人が多いんです。それをライブラリ化できないかと考えています」
彼はそう話していました。
ライブラリ化とは、よく使う複数のプログラムを再利用できる形でひとまとまりにすることです。
ソフトウェアの新規開発では、バグを生じるリスクが高く、かつ設計時間もかかります。ライブラリがあれば、それ自体を作るための時間は必要となるものの、一度作ってしまえば、ソフトウェア開発者は全く新規部分の開発のみに集中できます。結果、高品質のソフトウェアを開発することが可能というわけです。
これは、メカ設計も同じだと思いました。いわゆる「モジュラーデザイン」です。モジュラーデザインも、まさに汎用性や互換性の高い部品をモジュール化し、それらを組み合わせて設計するという考え方です。
設計者は設計すべき新規部分に注力して、その新規設計要素に対してさまざまな視点での解析(CAE)や公差設計を行い、最適化を重点的に行うことで、設計品質の向上やコストダウン対応が可能となります。
フロントローディングを行うには、設計者に「考える時間」という「原資」を与えることが必要です。モジュラー化や標準化、さらに標準化が進歩することで自動設計も可能となります。これにより、設計者が考える時間を作ることが可能となります。繰り返しになりますが、設計はそれだけ重要であり、クリエイティブな仕事だと私は思うのです。
装置は、メカ設計と電装設計、組み込まれるソフトウェアによって成り立ちます。このモジュラー単位を、単にメカ設計だけでなく、ソフトウェアや制御設計を含む単位で構成すれば、モジュラーデザインの効果はより大きくなります。
更に社内の作業標準や、装置の取扱説明書などへ発展させられる可能性もあります。このためには、全社の優れた知識を1カ所に集めることが必要です。その結果、どの企業も課題である技術継承も可能でしょう。
振り返ってみれば、実はこれらは手描き図面時代からやろうとしていた内容でした。環境が変化する中、進化したツールを活用し、設計の本質にまでおよぶ改革が求められてきているのだと思います。
今回書かせていただいたことは、3D CAD推進者の1人である私の、過去や現在の現場での経験に基づいた、設計改革のプランの一部です。皆さんに共感いただけることも、そうではないこともあるでしょう。
全社を結ぶコミュニケーションツールとして、もはやインフラであるといえる3D CADや3Dデータを活用する上で、皆さんの参考に少しでもなれば、うれしく思います。
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