機械メーカーで3次元CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者から見た製造業やメカ設計の現場とは。今回は設計改革について考える。
今(2015年)から約27年前、私がまだ当時の会社の新人だった頃、現場では2D CADの導入の最中でした。当時、「ドラフタ−」を使う先輩方から、「こんなもの使えるのか?」という声がCAD推進者に向けられていたことを覚えています。大きなA1図面に向かっていた設計者が、小さなモニターをのぞきながら設計をするわけですから、それも無理はなかったのかもしれません。
「設計者が頭の中で描く立体像を三面図化する」という作業の本質は、ドラフターも2D CADも同じです。ただ、伸縮・削除・復元・パーツ化・パーツ移動などが簡単に出来てしまう、2D CADというツール(道具)はとても便利なものです。2D CADは加速度的に社内に広まっていき、作業の効率化が進みました。当時の2D CADの導入は、「設計の考え方の改革」というよりは「ツール革新」の要素が大きかったと思います。
私は当時、「作業改善」という目的で、2D CADの機能に手を入れていました。その具体例としては、画面上のコマンドメニューの整理、ネジのライブラリ化、ネジ穴コマンドの作成といったものが挙げられます。これらは設計環境の変化への対応でした。
その後、2002年ごろから、2D CADから3D CADへ置き換わっていきました。
現在、3D CADの運用について、「3D CADはもはやインフラであり、ツールではない」とよくお話します。開発設計製造の全ての工程に活用できる「ごく当たり前にあるべきもの」と認識しているからです。
しかし私の現場で3D CADが導入された当時、設計品質上の課題を感じていた私は、それが「ごく当たり前」のものとは考えられませんでした。「なぜ3D CADなのか?」というところから3D CAD推進を始めました。
当時、設計する装置は、「高精度化」「高スループット化」だけではなく、「短納期対応」「コストダウン」まで求められる状況になりつつありました。装置により生産される製品の高精度化、開発スピードアップ、生産拠点の国内から海外への急速な展開、海外装置メーカー成長による市場競争、といった状況による影響でした。設計者たちは、会議や資料作成など社内外の対応時間が増え、1日の限りある時間がそれらに割かれていく中で、何とか設計時間を確保しているような状態でした。
また、その頃3D CADの効果として、よく使われていたキーワードが、「フロントローディング」でした。開発設計・製造の上流工程できっちり時間をかけて検証することで、製品不良を後送りせずに、結果、手戻り時間とFコスト(Failure Cost:失敗コスト)の削減ができるということで、企業にとっても魅力的な考え方でした。もう1つ、よく使われたのが「コンカレントエンジニアリング」というキーワードでした。設計で作られる3D CADデータを元に、同時並行的に他の工程も進めていくことで製品開発を短期化する仕組みのことです。
私もこの「フロントローディング」と「コンカレントエンジニアリング」による効果を得ることを目的として3D CADによるプロジェクトを進めてきました。しかし3D CADやその関連ツールを単に導入すれば効果を得られるわけではありません。
2Dデータと比較して3Dデータは、圧倒的に形状認識性に優れ、かつ多くの情報を持つことが可能です。「設計・製造品質を高めて」「効率を上げて」「コストを下げて」、しかも「納期を短縮する」という目的のために、3Dデータを「どのような場面で」「どの工程で」「何を見るために」「なぜ」「どのようにして」使用するのかを、設計部門だけではなく、全社の視点で考えて、そして「どう運用していくのか」を考えることが重要です。これは、企業戦略ともいえるでしょう。これなしに3D CAD導入を進めてしまえば、単なる「ツールの置き換え」にすぎない状況になってしまいます。
3D CADは2D CADに比べて複雑な操作になります。3D CADの導入を企業戦略的に考えてうまく説明していかなければ、忙しい設計者たちや、製造部門から、「こんなもの、本当に使えるのか?」と使うことすら避けられてしまうでしょう。苦情以上に、抵抗勢力を産んでしまうこととなり、ツールの置き換えさえ進まない状況になってしまうかもしれません。
私の経験上の視点で、まず現在の設計現場の状況や問題を以下のように4つに分けて整理してみました。
それでは、このような状況で、設計はどのように行われるでしょうか。以降でいろいろ考えていきます。
「製品の品質とコストは、設計によって決まる」といっても過言ではありません。どんなに設計工程以降の方々が改善努力をしたとしても、その製品品質を設計品質以上に超えるものに仕上げること、その製品コストを大幅に下げることは難しいでしょう。
高品質かつ低コストの製品を短時間で市場に投入していくためには、クリエイティブかつ責任も重い設計の本質に対して、「鋭いメスを入れる」という考え方ではなくて、まずその仕事を尊重した上で問題にフォーカスすることが大事と私は考えています。
その施策の1つとして、標準化への取り組みがあります。私もドラフターや2D CADを使用していた時代にそれを経験しました。寸法変更を繰り返すような類似性の高い設計をその都度手描きしていたら、非常に面倒であり、効率的ではありません。また設計変更も、新規設計も、設計トラブルの大きな1要素になります。
実績のあるものを標準化するということは、設計品質と設計期間短縮においては効果のある施策の1つです。例えば搬送を行うコンベアであれば、そのフレーム長さをL寸法で、設置面から搬送面の高さをA寸法と表示することで、さまざまなコンベアのバリエーションについて1枚の組立図で製番表記できます。かつ、その部品も寸法変動する部分について記号化して寸法表記することで、1枚の部品図として管理できます。これらはBOM(部品表)にも反映できます。この考え方自体は、今でいう「パラメータ設計」「コンフィギュレーション」あるいは「モジュラーデザイン」と共通しています。
例えば、まずコンベアを「平ベルト仕様」「丸ベルト仕様」、コンベアの幅を「端面基準」「センター基準」といったように、仕様やタイプ別に分類します。それと共に、コンベアに取り付けられる位置決め機構などをサブアセンブリ化した上で、設計者たちがそれぞれの考えの下で設計していたこと、つまり「これはどういう考え方で設計するのか」ということを標準化したデータへ落とし込むようにします。ここでは、コンベアを知り尽くした熟練の設計者の知識の拝借が必要になります。
かつて設計が2D CAD化されたとき、作業効率が良くなり、既存の設計に対して要求仕様に対応させるための部分的な変更、例えば「ちょっと線を伸ばす」「1穴だけネジ穴の増やす」などが容易になりました。そして組立図や部品図の派生が一気に加速しました。
しかし、誰もが見られる大きなドラフタ−上の紙図面から、個々の小さなモニター表示となったことで、設計室の中での情報共有がかえって難しくなったと私は感じました。また当時の技術では、2D図面の類似形状検索などができなかったので、設計者は一気に増えた派生図面を調べることが容易ではありませんでした。
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