「こうした活動の中で、絶対に3Dプリンタが必要かというとそんなことはない。アイデアを練り直した結果、3Dプリンタよりもレーザーカッターの方が目的にかなっているというケースもあった」と神田氏。
LMSでは、案内板やWi-Fiのパスワードの表示板というアイデアを形にしたが、通知するものは平面の方が向いていたため、3Dプリンタではなく、レーザーカッターを使った。
大分県立芸術文化短期大学の授業では、個性的な服を作りたいというアイデアがあったが、3Dプリンタの制約もあり、個性的な模様を服に付けるステンシル型を作ることになった。本来、こうしたものの場合は、レーザーカッターの方が適しているが、授業で使える機材が3Dプリンタのみだったので、ステンシル型を3Dプリントしてアイデアを形にした。一方、他の生徒は、既製品のポットの中にすっぽりと収納できるカップや、パズル型の茶托(ちゃたく)などを3Dプリンタで制作。「後者の例では、3Dプリントした試作品を見て、『やはり材料は、樹脂ではなく木材がいいよね』という結論になった」(神田氏)。
こういった活動の際、「適切なモノづくりの技術についても考えていきたい」(神田氏)という。何か欲しいもののアイデアを考えるきっかけになるのが3Dプリンタの楽しさであり、何か作ろうとなったとき、“道具の1つ”として3Dプリンタがあればとても便利だろうということだ。
神田氏は「『3Dプリンタ』と呼んでいる間は、それ以上でもそれ以下でもない」と語る。
例えば、電子レンジ。電子レンジの要素技術はマイクロ波加熱であり、マイクロ波によって分子を振動させると熱が生じるという効果を利用している。マイクロ波発振器と調理をうまく掛け合わせることで、電子レンジという生活に欠かせない製品が生まれたのだ。「しかし、もしも生活(調理)とつながらなければ、マイクロ波加熱はよく分からない技術のままだったかもしれない」と神田氏。
それと同じように、将来、「3Dプリンタと何らかの用途を掛け合わせて別のものが生まれるだろう」と神田氏はいう。
「3Dプリンタメーカー単独でというよりは、化粧品や食品といったジャンルごとの素材メーカーと組んで作ると面白いものができるのではないか。化粧品であれば、オリジナル配合の化粧品や個人のサイズにあわせたネイルチップ。ラーメンならば製粉会社と組んで、好きな長さや縮れ具合の麺(めん)。さらに、オプションパーツを買えば好きな模様の入ったナルトが作れるマイヌードルプリンタなどが面白いだろう」(神田氏)。
将来、こうしたものが世の中にたくさん出てくることで、「それが3Dプリンタであることが忘れられ、別の名前になるのではないだろうか。そういう未来を楽しみにしている」と神田氏。こうして3Dプリンタと呼ばれなくなったときが、「3Dプリンタが家庭に普及した」といえるときなのかもしれない。
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