伝送線路の損失は誘電損失と抵抗損失と呼ばれる2つの損失があり、その合計がトータルな損失となります。損失のある伝送路の効果回路で表した図2の回路では、Lと直列に接続されているR成分が抵抗損失、Cと並列に挿入されているR(G)成分が誘電損失となります(図6)。
これらの損失は発生原因は異なりますが、両方とも信号の周波数が高くなると大きくなる性質をもっています。銅をはじめとする導体は、内部に自由電子と呼ばれる電子が存在し、両端に電位差があると、この電子が移動し電流が流れます(図7)。
それに対し、FR-4をはじめとする基板に使われている誘電体は電子が単体として存在せず、電気双極子と呼ばれるプラス電荷とマイナス電荷がペアになった状態で存在しています(図8)。
誘電体の両端に電位差がない状態ではこの電気双極子はばらばらな方向を向いていますが、電位差が印加されるとおのおのの電位に引かれて方向がそろいます(図9)。基板の伝送線路配線では、信号とGNDプレーンの間で信号がハイのときは電位差が発生し、双極子の方向は揃います。信号がローになると、信号とGNDの電位差は小さくなり、双極子の向きはばらばらになります(図10)。
信号が高速になると、誘電体内部の双極子の方向変化が高速になります。この双極子の回転にはエネルギーが消費され、熱に変換されます。
このエネルギーは信号から供給され、誘電損失となり信号のエネルギー(振幅)を減少させます。この損失の大きさは、実数軸−虚数軸で表せます。入力信号の大きさに対して、実数軸成分が信号として得られる大きさ、虚数軸成分が損失で失われる大きさになります(図11)。
局座標で表現すると、tanδが損失となります。
信号が高速になればなるほど誘電体内の双極子の回転が速くなり、信号の損失が大きくなります。
誘電体の素材によって、内部の双極子の回転に多くのエネルギーを消費するものと、少ないエネルギーで双極子が回転するものがあります。
また、材料に応じて損失の周波数依存性も異なります。この双極子の回転に消費するエネルギーは誘電正接(tanδ)と呼ばれる材料に固有の値と材料の誘電率に依存します。
誘電体の誘電損失をtanδ、誘電率をε、信号周波数をf、誘電損失Ldとすると、単位長さ当たりの誘電損失は、
Ld=k・f・tanδ・√ε……(3)
となります。kは定数です。
つまり、周波数、誘電正接に比例し、誘電率の平方根に比例します。
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